潜在化する暴力団 年々厳しくなる取り締まりの現状と課題
条例制定で市民の“巻き添え”も
現在、一見して暴力団とわかるような暴力団員はほとんど姿を消しました。暴力団が代紋を掲げることもなければ、組員名簿も作成することもありません。○○組といった名刺で企業に面会をすることもないのです。株主総会を意のままに操る総会屋も少なくなりました。暴力を背景にした行為は、鳴りを潜めているのです。 だからと言って、私たち市民は安心・安全な暮らしができるのでしょうか? 暴対法や暴力排除条例の課題について、警察問題に詳しいジャーナリスト・寺澤有さんはこう指摘します。 「暴力団排除条例では、企業が暴力団関係者と取り引きすることも禁じられています。これらに違反すると、最悪の場合は銀行と取引停止になる可能性もあります。しかし、謄本を調べても一般市民は取引先が暴力団関係者かどうかはわかりません。だから、防ぎようがないのです」
寺澤さんによると、暴力団排除条例によって暴力団員は保険に加入することもできなくなったと言います。暴力団員が運転する自動車が事故を起こしても、一般市民の被害者は保険金を受け取ることができないことになります。暴力団対策のためにつくった法律で、一般市民が巻き添えを食うことになったら穏やかな話ではありません。 「一般市民と暴力団とのボーダーラインが曖昧になったことで、警察は反社会的勢力や共生者という新しい概念をつくりました。共生者の定義は、警察が決めるのではっきりしていません。そのため、神社のお祭りではテキヤが共生者と疑われて屋台が出店できなくなるという事態も起きています」(寺澤さん) 暴力のない社会や安心・安全な市民生活を目指すにことに異論を挟む人はいないでしょうが、それを実現するには難しい側面があることも事実のようです。 (小川裕夫=ライター)