「メキシコ人絶賛! 日本の“褒めポイント”は我らが軽く見過ぎていたもの?」稲垣えみ子
元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 【写真】稲垣さんの足元に桜の花びらが!写真を見る * * * 前回も書いたように、今回のメキシコ旅はホームステイだったが故に多くの人とお話をした。で、私は日本人ゆえ話題の一つは日本のこととなる。優しい皆様は日本をあれこれ褒めてくださるわけですが、その「褒めポイント」が実に興味深かった。 だって、日本(東京)へ行ったことがある人がオール口を揃えて絶賛するのが「地下鉄」なんですよ! 網の目のような路線図を見て夢中になったという人数知れず。これには事情があって、私が滞在していたメキシコシティは人口と面積の割に公共交通機関が圧倒的に不足しているのだ。故にどこへ行くにもみな車となり、日々の大渋滞から誰も逃れられず。地下鉄もあるにはあるが人が殺到しすぎて乗るのも降りるのも大騒動らしく、整然と並んで乗降する日本のカルチャーも熱き称賛の的なのであった。 で、正直「え、そこ?」と思ったんですよね。むしろ東京の地下鉄は込み入りすぎて乗り換えイラつくとか思っていた私。でも言われてみれば、確かにそのおかげで車などなくてもどこへでも行けるのだ。膨大な時間とお金をかけて公共の財産を築いてきた先人の苦労を思う。彼らのおかげで我らは「移動の自由」を享受できているのである。感謝したことなどなかった自分を恥じたことであった。
そのほか褒められたものを挙げると、清潔さ、コンビニおにぎり、いちご大福、温泉、コメ、里山……などなど。日本といえばフジヤマ・ゲイシャの時代がウソのようにバリエーション豊か。ネットで個人の情報を個人が受け取る時代ってこういうことなのか。そしてそのいちいちに、その価値にちゃんと気づけずにいた自分を振り返り、改めて日本って何だろうと考えずにはいられなかったのである。 でも彼方のメキシコ人が「超クール」と目を輝かせる日本のコメも里山も、気づけばもはや風前の灯。我らは「ないもの」ばかり追い求め、「あるもの」を軽く見過ぎてきた。あって当たり前なことをもう一回ちゃんと見なきゃですね。 まだ間に合うと思いたい。 稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行 ※AERA 2024年4月22日号
稲垣えみ子