ドラマ『サ道』は最早サウナそのものだ 現代社会に疲れ切った人に訪れる“解放”
昨今、都内近郊では大型スパ施設から、プライベートサウナまでさまざまなサウナ施設が続々とオープンしている。また、男性のみの施設では、かなりの高頻度でレディースデイが開催されるほか、サウナにまつわるポップアップショップや、大手メーカーとのコラボレーションは毎度SNSで話題に。もはやサウナはブームを超え、多くの世代から市民権を得ている娯楽の1つとなった。 【写真】『サ道』で取材した際の原田泰造撮り下ろしカット(2020年) しかし、サウナをまだ経験していない人の中には「なぜそこまで人気なのか?」と疑問に思っている人もいることだろう。 そんな人にこそ観てほしいのが、テレビ東京系で放送されてきたドラマ『サ道』シリーズだ。 同シリーズは、単にサウナ施設の魅力を余すことなく伝える番組ではない。自分の内側と向き合うきっかけをくれる、心の“ととのい”番組なのだ。 その中でも、多忙な毎日を生きる現代人に推したいのは、シーズン1・第10話「天空のアジトで男泣きにととのう」の回である。『サ道』シリーズは、毎度、話の中心となる人物が変わる構成になっており、この回の主人公はとある窓際会社員。メインキャラクターとなる村田直行(荒川良々)は、家族や部下からぞんざいな扱いを受けている。 物語の始まりは、ナカタアツロウ(原田泰造)が、とあるサウナで出会ったサウナ仲間・偶然さん(三宅弘城)・イケメン蒸し男(磯村勇斗)と3人で盛り上がっているのを、村田が羨ましそうに見つめるところからスタート。 この日の村田は一日中ついていないことばかりだった。取引先の社員からの心ない一言に傷つき、部下からは「課長、バカなんですか!?」と言われ、束の間の休息を取っていた公園では子どもたちが遊んでいたボールが直撃。おまけに家族からは「外でご飯を食べてきて」「帰宅可能時間23時以降」と言われる始末。 そこで訪れたのが、天空のアジトと言われるサウナ施設、東京・笹塚にあるマルシンスパだ。 『サ道』シリーズの特徴の1つとして、メインキャストがサウナに到着してからはセリフがグッと抑えられる。登場人物は、ただ淡々と身を清め、大きな浴槽に浸かり、サウナルーティーンを始めるのだ。 余計な演技をせず、まるで役者本人が本当にサウナに癒しを求めに来ているように見える。そして、スパ施設特有の大量の水がとめどなく流れ、高い天井に反響しているような音、サウナ特有のサウナストーンやストーブがパチパチと共鳴する音なども楽しめる。この音を聞いただけで、サウナの気持ちよさが伝わり、サウナに行ってみたくなると言っても過言ではない。 もちろんその間も、メインキャラクターの心の声を主軸に物語は進んでいく。この回の場合、村田は熱波師から送られる熱い風を受けながら今日あった嫌なことを続々と思い出し、終いには汗とともに涙を流していく。その心の移り変わりを表すモノローグが見事であった。 特に涙とともに「いいか、お前ら若造どもに俺の気持ちがわかるか、バカやろう!」と奮起するモノローグには心をグッとさせられた。そして、村田は水風呂に入り外気に晒されて整いながら、今の自分にとっての等身大の幸せとは何かに気づいていく。視聴者はその過程を観て、ただ自らの心の声と向き合うことこそがサウナの魅力だと気付かされるのだ。 サウナが市民権を得たからこそ、めんどくさいことも増えた。マナー違反客が目につくようになったり、それぞれのサウナにローカルルールがあったり、ととのうための正しい入り方があったり……。しかし、本来、サウナというのは自分と対話をし、心地よく入ればそれでいい。なにも誰かと比べて、優等生になる必要などない場所である。 社会を生きたり、SNSでいろんなことへの批判が目につきやすくなった昨今。私たちは“こうあるべき”に縛られすぎているところがある。しかし、サウナという場所では、そんな自分の“こうあるべき”から解放されてもいいはず。『サ道』シーズン1第10話は、村田という1人の男を通して「思っちゃいけないことなどない」と心の解放を促す回であった。 このようにドラマ『サ道』シリーズは、私たちが日々考えている心のモヤモヤにすっと入り込んでくれる。そして、それを観て、サウナで自分の体を癒したくなるまでがセットで魅力であると言える。 だからこそ、年末、多忙な毎日から解放される束の間の瞬間に観てほしい。『サ道~2023 SP~』を通して、ぜひともサウナの魅力を堪能し、心の内側と向き合ってみてはいかがだろうか。
於ありさ