激務イメージのエンタメ業界で男性マネージャーが育休取得 取得者本人と担当者が語るUUUM流“令和の働き方”
インフルエンサー業界を長きにわたりリードするUUUMは、2024年2月に厚生労働省が認定する「えるぼし認定」で3つ星を取得した。 【写真】UUUM バディ、サステナビリティ推進責任者の撮り下ろしカット えるぼし認定は、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律「女性活躍推進法」に基づき、一定基準を満たし、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業を認定する制度。「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5つの評価項目が定められているなか、同社はすべての基準を満たしたと評価され、3つ星認定を受けている。 休みなく働いているイメージが少なからずあるエンタメ業界。しかし同社は男性社員の育児休業取得推進にも熱心に取り組んでおり、過酷な職業という印象をもたれやすいクリエイターのマネジメントに従事する「バディ」のなかには男性の育休取得者も存在する。 そこで今回は、同社で実際に育休を取得した経験のあるバディ・相澤直人氏とサステナビリティ推進責任者でえるぼし担当の鈴木義之氏に、同社における男性の育児休暇取得と“令和の働き方”について話を聞いた。 ・クリエイターも育休取得を後押し ーー相澤さんは普段、ファミリーチャンネルの「HIMAWARIちゃんねる」と「70cleam」のバディとして勤務されているそうですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか? 相澤直人(以降、相澤):私は弊社で「バディ」といわれる、クリエイターのサポート業務全般を行っています。この2組に関しては3年近く担当しており、撮影業務のサポートやチャンネル分析に基づいた提案のほか、タイアップ案件の進行を主に行っています。 鈴木義之(以降、鈴木):お子さんと一緒に遊んだりも? 相澤:それは多いですね。現場で顔を合わせる機会が多いので、子どもたちに信頼してもらえるよう、仲良くなれるように、ハマっているアニメを勉強したり、お子さんのお世話もします。 ーーお兄さん的な存在でもあり、ビジネスをサポートする立場でもあり、いわゆるマネージャーとは違うような感じがしますね。 相澤:撮影になると自宅に伺う機会も多いので、クリエイターはバディのことを親戚というか、家族の一員としてみてくれていますね。 ーー相澤さんは以前、育休を取得したそうですが、取得を決めた理由と期間を教えてください。 相澤:私が育休を取得したのは、2022年12月からの2か月間で、2人目の子どもが1歳になる直前でした。核家族で、当時は上の子がまだ2歳だったので、2人の子どもの育児を妻一人でこなすのは負担が大きいと考え、この制度を利用して一緒に育児と家事ができればいいなというのが理由でした。 ーー育休を取得すると報告した際、ほかの社員の方々や担当クリエイターからはどういった反応がありましたか? 相澤:後ろめたい気持ちがあり、どんな反応が返ってくるか怖かったのですが、上司も弊社のメンバーも温かく受け入れてくれました。私が担っていた業務というのは、誰かしらが代わりに担当することになりますが、上長がすぐにフォロー体制を整えてくださり、気負いすることなく休みに入れました。 担当しているのがファミリークリエイターというのもあって、クリエイターの親御さんも頑張ってきてくださいといってくださって。実際に子育てをされている方々からの後押しだったので、本当にありがたかったです。休むことによって迷惑をかけた部分もあると思いますが、温かい言葉をたくさんいただいたり、すごく支えになりました。 ーー相澤さんのように、バディとして働いている方も気負わずに安心して育休がとれるんですね。貴社の育休取得の状況はどうなのでしょうか? 鈴木:2022年6月~2023年5月では、弊社全体で男性の取得率が87.5%、女性はほぼ100%というような状況となっており、比較的取れている状況です。 私はこの会社に6年勤めていますが、育休についてネガティブな意見を聞いたことがなく、結婚や妊娠、出産などおめでたいイベントごとはお祝いしようという文化や雰囲気が社内の根底にあると感じています。取得者側は実際に休みに入るまで後ろめたい気持ちがあるかもしれませんが、相談してみたら気持ちよくお休みに入れるというのは、社内的にあるのかなと思います。 ーー相澤さんが育休を取得されたときはほかの方がカバーに入られたということですが、うまく業務がスライドできるように体制が作られているんですね。 相澤:バディについては、個々のクリエイターによってサポーターの仕方も違えば、会話したことが今後に繋がることもあり、普段から担当が変わる際の引き継ぎは徹底していますね。 鈴木:変化が激しい業界なので、半年に1回、業界の変化に合わせて我々も柔軟に体制を変更しています。その分、業務の引き継ぎや引き渡しなどの仕組みもある程度整っているということも背景にあります。 ーー仕組みができているというのがすごくいいですね。相澤さんはお休みの2か月間は、仕事に触れずに過ごせましたか? 相澤:社内の連絡ツールを全部停止し、メールも届かないようにさせていただいたので、家庭での役割に専念することができましたね。 ーー奥さまの反応はいかがでしたか? 相澤:本当に喜んでいました。短い期間でも家事や料理の苦労を体験したことで、話をする際の理解や受け取り方が変わると感じます。妻としても、短期間でいいから家庭の仕事を体験してほしいという気持ちがあったと思うので、取得してよかったですね。 ・育児が気づかせてくれた“人生のコントロールの仕方” ーークリエイターのマネジメント業務は時間が不規則で、休みが取りにくいイメージがありますが、育休を取得された前後で働き方や働き方に関する考え方に変化はありましたか? 相澤:育休を取る前は仕事に追われていたというか。当時は1日中仕事をして、余った時間をプライベートや生活に費やすタイプだったので、仕事次第で自分の生活が変わってしまって、自分の人生をコントロールできていないような感覚がずっとありました。 そういう働き方を変えたいと思っていたところ、休暇を取ったときに仕事は大事だけど、根底はやはり自分の生活や家族だと改めて感じたんです。それからは1日のうちの何パーセントを仕事に使うかを自分のなかで定めて、私生活や家族の時間がちゃんと取れるように、スケジューリングや計画性を意識して働くようになりました。 ーー育休をきっかけに時間管理に意識が向くようになったというのは興味深いです。QOLが上がりそうですね。 相澤:時間管理に意識が向くようになったのは、育休中に家事を経験したことも影響しているかもしれません。家事と育児はマルチタスクで、何かをしているときに子どもが泣き始めたり、次の予定が迫っていることもあり、予定通りに進まないことが多々あります。臨機応変さが求められるこの経験は、普段の仕事とは異なる頭の使い方を必要としました。仕事に復帰した際には、家事で培ったスキルがタスク処理の効率向上に役立つと感じる場面がありました。 ーー担当されているのはお子さんが活躍するチャンネルですが、育休復帰後、担当クリエイターに対して新たに感じたこと、気づいたことはありますか? 相澤:親御さんたちと会話する際に、いろんな苦労をされて今があるんだなと思うようになりましたね。それまではお仕事の面でしか接していない部分もありましたが、僕らとの会議が終わったあとに子どものお世話や食事の準備をしているという風景がリアルに想像できるようになったので、会話が増えましたね。 ーー育休が人生でも仕事でもターニングポイントになったんですね。前職は制作会社にいらっしゃったとのことですが、以前の職業を続けていたら育休はとれていたのでしょうか? 相澤:制度としてはあるのかもしれませんが、前職の業界はかなり多忙でして。有給休暇を取るのでさえもはばかられるという状態でしたね。 ーーエンタメ業界のなかでも、環境が整っているUUUMだからこそ取得できるんですね。男性の育休取得率87.5%という数字が出ていますが、これまで男性の育休取得にはどういった課題がありましたか? 鈴木:相澤さんの話にもありましたが、取得するまで後ろめたい気持ちは課題の1つです。僕も子どもが2人いるので理解できるのですが、取得する側は当然そういう気持ちになる。ひとりで抱え込んでしまい、なかなか言い出せないというのは今後もあるのかなと思っています。 ーー男性社員の方が育休を取りやすくするために、企業としてどういったことに取り組まれたのでしょうか? 鈴木:実際に取得している人がいることを社員が実感できることが1番だと思っています。会社として取得を推奨する発信をしていますし、役職が上の社員の取得も進んでいる状況です。UUUMでは育休を取得するのが当たり前だということを、従業員自身が示せていると感じています。 また、弊社では2023年に育休を考えている社員に向けて男性、女性それぞれに「育児休暇の手引き」という動画を用意しました。育休を取得するために必要な準備や申請の仕方を分かりやすく説明するとともに、気持ちの面でも後押しできるような働きかけを動画を通して行っています。 ーーエンタメ業界、特にクリエイターのマネジメントに従事されている方々の“令和の働き方”についてはどう考えていらっしゃいますか? 鈴木:それぞれの人のステージに合った多様な働き方への対応と、事業の持続性・成長を両立できる働き方が、令和の働き方だと思っています。弊社が取り組むサステナビリティでは、「世界を切り拓く 人材の育成」と「誰もが働きやすい環境」というマテリアリティをその1つとして掲げていますが、「誰もが働きやすい環境」というのは人によってさまざまだと思いますし、ただ働きやすいということだけではなく、事業の持続、成長はセットだと考えており、そのいいとこ取りができる働き方が令和らしい働き方なんじゃないかなと思っています。 ・ライフイベントから復帰しやすい会社に ーーいいとこどりの働き方を実現するための、今後の対策はありますか? 鈴木:取得する側と、育休取得した組織側の両面に対して必要だと思っています。取得する側には、復帰がよりスムーズになるような取り組みをしていきたいです。産休や育休を取得した社員に復帰時に困ったことがなかったかをヒアリングし、育休中の情報のシェアの必要性やシェアの方法など、休暇前後で解決できる部分について対策を取ろうと検討しているところです。組織側については、お休みされる分のフォローアップや仕組みを検討したいと思っています。 ーー相澤さんのお話からは実際に育休を取得され、以前よりも公私共に充実された感じを受けました。休暇をこれから取得する男性社員の方や取得するか悩まれている方に伝えたいことはありますか? 相澤:周りの話を聞いていると、育休を取るかすごく悩んで、結果的に取らない男性が多いと感じています。絶対に休暇を取らないと家がまわらないという状況の人はあまりおらず、休んでほかの方に迷惑かけるよりは、自分が頑張って働いた方がいいという判断で、結果的に取らないのだと思うんです。ただ、育休を取得することで子育てに余裕が生まれるのであれば、それをためらうことはないと思います。子育ては本当に大変な仕事ですから、余裕をもって臨むことに後ろめたさを感じないでください。そんな必要はないんだよと伝えたいです。 鈴木:仕事あっての家庭だし、家庭あっての仕事ですよね。弊社は育休も有給も取りやすい会社だと思います。部署によっては出社は推奨されつつも、状況によってリモートワークと出社によるデュアルワークを導入しているほか、全社員の80%はフレックス制度を利用しており、環境に合わせた働き方が可能です。 特にクリエイターのマネジメントを担うバディはイレギュラーな対応が必要になる役割ですが、デュアルワークとフレックスを活用することによって、柔軟な働き方ができます。そういった点も含め、エンタメ業界のなかでも弊社はクリエイターマネジメント従事者が働きやすい企業だと思っています。
せきぐちゆみ