密着！　宇和海伝統のハモ漁　揺れる船上で力強く暴れるハモと格闘

　八幡浜港は全国の主要漁港の中でハモの水揚げが最も多い。漁の最盛期は関西圏の需要が高まる梅雨時期から夏場。中でも魚体に傷をつけず捕獲できる伝統漁「はえ縄漁」のハモは高値で取引されている。そのはえ縄漁を同行取材した。宇和海に出漁し、揺れる船上で約14時間。鋭い歯を持ち力強く暴れるハモと格闘する夜通しの漁の現場をリポートする。 　6月13日午後3時、快晴。宇和海に面したリアス海岸の入り江にある西予市三瓶町有太刀の漁港で、漁師歴約10年の宇都宮裕也さん（40）＝西予市三瓶町蔵貫＝が操る「裕希丸」に乗り込んだ。船の右手には佐田岬半島、左手には宇和島市の多島美。向かう先には大分県が見渡せた。陸地の気温は30度近かったが、波を切り進む船上は涼しい。 　漁を始めたのは西予市三瓶地域の岸から直線約4キロ。水深約80メートルの地点。「ここの海底は泥質。日中は砂や泥に隠れ、夜エサを求めて動くハモを狙います」と宇都宮さんが解説してくれた。 　◆栄養豊富な漁場◆ 　愛媛大の鈴木聡名誉教授（環境微生物学）によると、宇和海は夏場、海底に「底入り潮」という低温で栄養塩が多い太平洋の深層水が入る一方、表層は黒潮由来の「急潮」という暖かい海水が現れる。狭く深い海域でこの二つの海水が混ざることで栄養豊富な漁場が育つという。 　水産庁の調査では、八幡浜港の2022年のハモの水揚げは約230トン。全国主要147漁港中最多を誇る。京都の祇園祭や大阪の天神祭が行われる夏場に出荷が増える。 　◆上物狙う伝統漁◆ 　漁場には既に5隻の船が400メートル間隔で一直線に並んでいた。宇都宮さんは四国側の岸に最も近い位置に船を着けた。夜間、長距離で漁をするため、他の漁船に迷惑がかからないよう一斉に始める。 　「一番東が宇都宮です。今日もよろしくお願いします」。レーダーを見ながら他船の漁師と無線で細かく位置を調整する。「今日はいけそうな感じやね」「了解、了解」などの会話が聞こえてきた。。