元日本代表GK・川島永嗣が不惑の告白「もっとうまくなりたいという欲がどんどん出てくるんですよ」
今季フランス・リーグアン(1部)では、いずれも日本代表のスタッド・ランスの伊東純也(30)、中村敬斗(けいと)(23)、モナコの南野拓実(28)の躍動に注目が集まっている。一方で――昨季まで同リーグでプレーしてきた元日本代表GKの川島永嗣(40)の姿は、フランス北東部ストラスブール市郊外にある田舎町のサッカー場にあった。 【未掲載カット】すごい…!鍛えながらオファーを待つ…元日本代表GK・川島永嗣 素顔写真 地元のアマチュアクラブが練習や試合に使うグラウンドで、川島は横っ飛びでボールを止めたり、パンチングでシュートを枠外に弾き出したり、個人トレーナーと2人でGK練習に汗を流していた。 川島は今年6月に5シーズンを過ごしたストラスブールとの契約が満了。以降、所属クラブのない状態が続いている。 「トレーナーとマンツーマンで練習を続け、新しいチームを探しているところ。練習はめちゃくちゃキツいですが、楽しんでやっていますし、自分の感覚的には(全盛期だった)30代前半の頃よりもコンディションはいいくらいです(笑)」 川島はそう笑うと、「辞めるつもりは全くないですよ」と改めて引退を否定した。 日本代表として’10年南アフリカ大会から4度、W杯を経験したレジェンドが、地方の牧歌的なグラウンドでトレーナーと2人きりでなぜ、高いモチベーションを保てているのか。 「なんでですかね?(笑)……僕は過去へのこだわりがないというか、’18年のロシアW杯が終わったころ、一度自分がやってきたことは全部捨てようと思ったんです。自分が成長するためにはW杯に何回出たとか、ヨーロッパで何年プレーしてきたとかは関係ないですから。大事なのは自分がどうしたいか。周りにどう見えているかとか、どう思われているかはあまり気にしていません。それ以上に、過去2年間はクラブで試合に出られない状況が続いていたので、残りのキャリアを考えたときに『試合に出たい』という思いが強くて……。40歳にはなりましたが、幸い身体に痛いところはない。練習していると『もっとうまくなりたい』という欲がどんどん出てくるんですよ」 自分の納得できるプレー環境が見つかれば、「どの国へ行くことも厭(いと)わない」と川島は話す。 「自宅のあるストラスブールという街を僕も家族も気に入っていますが、いまは新しい挑戦ができるなら、フランス以外のヨーロッパの国でも、日本でもいいというスタンスでいます」 日本人GKのフロントランナーとして長くヨーロッパの第一線で活躍してきた川島。その道は決して平坦ではなく、途中で所属クラブやポジションを失ったことは一度や二度ではなかった。それでも川島はストイックに努力を重ね、最後はクラブに請われる形でここまで現役を続けてきた。 ◆日本人GKへの偏見を変えたい 「ストラスブールでは36歳と38歳の年に、それぞれ2年契約をしてもらいました。正直、外国人(EU外選手)枠でこの年齢まで生き残れたのは奇跡。外国人枠の多いドイツやベルギーと比べてフランスリーグは3枠しかないので、ハードルは決して低くないですから」 日本に戻れば、求められるチームはあったはず。だが、海外でのプレーにこだわってきたのは、「日本人GKはレベルが低く、海外では活躍できない」というレッテルを覆したかったからだ。 「だって、理由もないまま日本人だからレベルが低いって言われても納得できないじゃないですか(笑)。僕は18歳でイタリアのパルマに留学したときから、絶対に日本人GKでもヨーロッパの第一線でプレーできると確信を持っていましたし、それを自分で証明したかった。そういう偏見は誰かがどこかで変えなければ、ずっと変わらないですからね」 海外でプレーするために、川島が高校時代から語学の習得に熱心だったのは有名な話である。いまでは英語、フランス語、イタリア語、スペイン語の日常会話は問題なく、オランダ語やポルトガル語でも、ピッチで仲間に指示を出せるレベルにあるという。 「GKは仲間に指示を出したり、リーダーシップを発揮しなければいけないときもあるので、自分の言葉ではっきり伝える能力は必要だと思います。それと同じくらい大事なのは『どんな場所でも、自分らしくいる』こと。GKは国によってスタイルが違ったりして、僕も最初は行く先々で求められることを受け入れようとしていましたが、どこかで違和感が出てくる。結局、GKって自分自身のキャラクターがプレーに繋がっているような気がするし、ピッチで自分をどう表現できるかだと思うんです。だから、誰にどんなアドバイスをされても、自分が正しいと信じることについては、こだわりを持ち続けることが必要な気がします」 昨年のカタールW杯を最後に、日本代表からは遠ざかっている。自身のなかでも一区切りとの思いがあるというが、過去4度経験したW杯での日本代表の戦いぶりは、川島の目にどう映っていたのか。控えに回った前回カタール大会の敗退後、正GKを務めた権田修一(34・清水エスパルス)以上に悔しそうな表情をしていた川島の姿は印象的だった。 「(決勝トーナメント1回戦の)クロアチア戦の前日もどうやったら勝てるかってことをずっと考えていましたし、本当に悔しかったんですよ。W杯に4度挑戦させてもらって、そのうち3度はベスト16まで行きましたが、またベスト8に行けないのかって(笑)」 ’10年と’22年はパラグアイとクロアチアにそれぞれPK負け、’18年はベルギー相手に2点をリードしながら、終盤の3失点で逆転負けを喫した。W杯ベスト8にあと一歩と迫りながら、その一歩が遠い。 「グループリーグは戦い方次第で、うまく抜けられる。ただ、一発勝負の決勝トーナメントはそれ以上の何かを持ち合わせていないと勝つことが難しい。それを言葉で表すのは難しいのですが、遠くないように見えても、実際に戦ってみるとその前には高い壁があるのも事実で、それが″経験″というものかもしれない。そういう意味では、カタールで若い選手たちが悔しい思いをしたことは、財産として次に繋がるのかなと思っています」 その経験が早くも生きたのか、日本代表は9月の欧州遠征でドイツ、トルコに快勝すると、10月にもW杯出場国のチュニジア、カナダを連破している。 「カタールW杯でドイツとスペインに勝ったときは、(守備的な戦い方で)こんな戦い方では10回やっても1回しか勝てないなんて声もあったじゃないですか。でも、成長過程では内容なんてどうでもいい。勝つことが大事で、1回勝つとそれが普通になって、9月のドイツ戦では内容でも上回っていましたよね。僕らの時代はヨーロッパでプレーすることが一つの夢でもありましたが、いまの若手はそれが当たり前になりつつある。確実にスタンダードは上がってきている。日本代表はまだまだ成長できるし、これからもっと期待できると思っています」 40歳になっても「学ぼうと思えば切りがない」と川島は言う。森保ジャパンとともに、レジェンドGKの成長が楽しみでならない。 『FRIDAY』2023年12月1日号より 撮影・文:栗原正夫
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