『光る君へ』父の藤原兼家に「とっとと死ね!」と暴言を吐いてやさぐれた道兼、『大鏡』に描かれたその狂乱ぶり
『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第14回「星落ちてなお」では、藤原兼家がついに死去。後継者に指名された長男の道隆が独裁を振るうようになり……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部) 【写真】藤原道綱の母が兼家と歌を詠み合った京都・宇治川 ■ 兼家の後継者指名は誰が見ても順当だった 永祚2(990)年7月2日、関白の藤原兼家が病によって62歳でその生涯を閉じることになる。 今回の放送では、段田安則演じる藤原兼家が、後継者に長男で井浦新演じる道隆を指名するシーンがあった。これに激怒したのが、道隆の弟で、玉置玲央演じる藤原道兼である。こんなセリフを口走っている。 「父上は正気を失っておられる。父上の今日あるは私の働きがあってこそ。なにゆえ兄上に!」 状況から判断すれば、後継者は長男の道隆が順当だが、何とも切ない。道兼は花山天皇をだまして出家させたことを自分の功績だと考えているようだが、頭が切れる兼家がそんなリスキーな役割を、後継者と目する人間にやらせるわけがない。 要は勘違いしているのは道兼だけであり、視聴者も皆、兼家の容赦ないセリフと同じ気持ちだったことだろう。 「黙れ! 正気を失っているのはお前の方だ」 誰が見ても順当な結果にもかかわらず、激怒して「この、おいぼれが……とっとと死ね!」と言い放った道兼。せっかくここまで兼家パパに忠誠を誓い、汚れ役も担ってきたのに、最後の最後で台無しになった。「これ以来、道兼は参内しなくなった」というナレーションが何とも悲しかった。
■ 愛妾の寧子も思わず涙した、兼家との「最高の別れ方」 そんな道兼とは対照的に「終わりよければすべてよし」となったのが、『蜻蛉日記』の作者で、財前直見が演じる藤原道綱の母だ。本名は不明だが『光る君へ』では寧子(やすこ)という名で登場する。 兼家の愛妾だが、なかなか思うように会うことができず、寂しい思いをした夜も多かったようだ。そんな悲哀の感情も、藤原道綱の母は『蜻蛉日記』に綴っている。 ドラマでは、すでに剃髪して横たわる兼家に、寧子が「道綱、道綱、道綱……聞こえますか? 道隆様に『道綱のことをお忘れなく』と仰っておいてくださいませね。道綱……」 としつこく迫って、当人である息子の道綱に「お加減の悪いときに、そんなことを申されるのは」とたしなめられている。 すると、おもむろに兼家が目覚める。何を口にするのか注目していると、こんな和歌を口ずさんだ。 「嘆きつつ ひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る」 現代語訳すれば「嘆きながら、一人で寝ている夜が明けるまでの時間がどれだけ長いものか。あなたはご存じないでしょうね」というもの。 なかなか訪ねてこない兼家に向けて詠んだ和歌として『蜻蛉日記』に書かれている。それを兼家が口にしたということは、『蜻蛉日記』をちゃんと読んでいたということ。兼家が「あれは……良かったのう」とつぶやく。これには寧子も涙することとなった。 何を考えているのかつかみにくい兼家に振り回された藤原道綱の母だったが、『光る君へ』では、最後で確かな心の結びつきを感じることができた。最高の別れとなったと言えるだろう。