「アメリカの指摘をしても日本のジェンダー問題はなくならない」誹謗中傷されたハーバード大医師が伝える“論理のねじれ”
ハーバードももう進歩しなくていいわけではなく…
この現象を逆の視点から見てみたエピソードを紹介させてください。 2021年度に入学したハーバード大学医学部生は6割が女性でしたが、私が受け持った授業でこの学年を教えたとき、「日本では女性の合格者を減らすために医学部入学試験の点数が組織的に操作されたスキャンダルがあったんだよ」と話し、日本の医学部の女性差別問題を議論したことがありました。 その議論で印象的だったのが、授業を共に担当した90代の白人男性内科教授が「自分が医学生だったときには女性は数人しかいなかったことに比べたら、今年女性が6割入学したことは大きな進歩だ。しかし、ハーバードもここまで進歩したからもう進歩しなくていいわけではなく、まだまだ進歩し続けなければならない」と発言したことでした。この議論で「アメリカの医学部は日本の医学部の女性差別に比べるとずっとましだから、これ以上進歩しなくてもいい」という意見は一切出ませんでした。 先に書いた通り、日米の性犯罪報告数に関しては、性犯罪の定義も、通報のしやすさも違うために同列に比べられるものではありませんが、それはここでは論外のことで、アメリカの性犯罪が日本より多かったとしても少なかったとしても、例えば日本のジェンダー問題、後の章で語る同意教育、メディアの表象についての議論は、社会として前進させなければならないと思うのです。 私の住むアメリカの問題を「そういうあなたはどうなのよ?」とどんなに指摘しても、日本のジェンダー問題はなくならないのです。
内田 舞