能登半島地震から4週間 文化財が倒壊…耐震の課題は【WBS】
石川県の能登半島地震から4週間が経過しました。今回の地震では、伝統的な建築物などの文化財にも甚大な被害が出ています。現場を取材しますと、文化財ならではの耐震の難しさや復旧に向けた課題が見えてきました。 石川県輪島市の海岸近くにあるのが、明治前期の船乗りの邸宅だった旧角海家住宅です。国の重要文化財として観光スポットの一つになっていましたが、原形をとどめないほどに損壊しました。今回の地震でこうした文化財の被害はわかっているだけで266件に上ります。 同市にある曹洞宗の寺「総持寺 祖院」も大きな被害を受けた場所のひとつ。700年の歴史を持ち、年間6万人が訪れた街のシンボルですが、至るところに地震の爪痕が残っています。副監院の髙島弘成さんは「手を清める手水舎(ちょうずしゃ)は柱がペしゃんと折れた」「めくれ上がった石畳は余震でだんだんひどくなってきている状況だ」と話します。 特にひどかったのが、国の登録有形文化財「禅悦廊」。30メートル以上にわたる木造の廊下が横に大きく崩れ落ちました。明治の火災後に再建された姿をそのまま残し、多くの参拝者が通り抜けたといいます。
さらに創建当初からあると言われる国の登録有形文化財「白山井戸」も屋根が崩れ落ちました。 実はこの総持寺 祖院は2007年にも地震に見舞われていました。被災した建造物は14年かけて修復や耐震工事を終え、3年前に完全復興を宣言したばかりでした。 「門前町のシンボルとして一緒に地域を盛り上げようという矢先なので、なんか残念とかショックとか超えたところの気持ちだ」(「総持寺 祖院」副監院の髙島弘成さん) 2017年の被災で工事にかかった費用は約40億円。大半は全国の寺院からの寄付で賄われました。 「今、もう一回同じことは正直難しいんじゃないか。やっぱりまたかという声がないこともないし」(髙島さん) 寺の前に広がる商店街にある「シモグチ洋品店」の下口十吾さんは「総持寺があっての総持寺通り商店街。ただこういう状況なので、しばらくは観光客は来ることができない状況」と話します。 地元の観光の柱にもなる文化財。文化財の保全に詳しい香川大学創造工学部の宮本慎宏准教授は、「文化財の場合は耐震性を確保しつつ、その文化財が持っている建築的、意匠的な優れた点を損なわないことが求められる。耐震補強をすると見た目が変わる」と文化財ならではの耐震の難しさを指摘します。 文化財の耐震性の確認は、国の「重要文化財耐震診断指針」に沿って実施します。しかし、今回の地震では、耐震補強をした建造物も数多く倒壊しました。 「地震が起こりやすい地域はもう少し目標値を上げるなど、現場ごとに柔軟な対応が求められる」(宮本准教授) 文化財を管轄する文化庁はどう対策を進めるのでしょうか? 文化庁文化資源活用課文化財調査官の西岡聡さんは「不特定の人が滞留するような文化財の耐震化を目標にしている。耐震の着手率は47%」と文化財の耐震化がまだ目標の半分以下にとどまることを明らかにしました。 文化庁は引き続き耐震化を進めるとした上で、指針の強化の可能性も示唆しました。 「耐震工事がされていたものが倒れた初めてのケース。指針にもう少し書き込むことがあるかは検証しなくてはいけない」(西岡さん)