『ブギウギ』“善一”草彅剛と“麻里”市川実和子は理想のペア? 夫婦関係を比較する
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の主人公・スズ子(趣里)は、気づいたら自分のファンである村山愛助(水上恒司)に心を奪われてしまっていた。あちらの猛烈なアピール、お互いに気兼ねなく過ごせる雰囲気、弟のように世話を焼ける満足感など、愛助が持つ数々の魅力が、年の差が9歳もあることや「村山興業の御曹司である」という“マイナス”な要素をポンっと飛び越えてしまったのだろう。相手から初めて気持ちを真っ直ぐにぶつけられ戸惑いながらも、何か満たされているようなムズムズとした感覚に思わず微笑んでしまうスズ子の姿はとてもかわいらしい。これから結婚も視野に入ってくるのだろうか。 【写真】スズ子(趣里)にグッと近寄る善一(草彅剛) 夫婦というのは、一緒に長い時間を過ごしていく大切なパートナーである。第11週で結婚していたことが判明したアホのおっちゃん(岡部たかし)とアサ(楠見薫)のように四六時中、握った手を離さずイチャイチャしているような、互いに互いを愛する気持ちはいつまでも持っていたいが、それだけでは生活を営んでいくことができない。仕事をし、家事をし、子宝に恵まれれば子育てをし……。次から次へとやってくる苦楽をともにできるかどうかが大きなポイントだといえよう。 本作でも夫婦が何組か登場しているが、大抵は「お母ちゃんがしっかりしていて、それに引っ張られるお父ちゃん」という組み合わせである。その代表がスズ子の両親・梅吉(柳葉敏郎)とツヤ(水川あさみ)の花田夫妻だろう。梅吉は役者になることを志していたが、すぐにその夢は映画の脚本家になることに変わった。作品が全く採用されない中、梅吉は何を思ったか、同郷で香川から出てきた時に一緒についてきてくれたツヤに銭湯を開業することを提案、銭湯を経営することになる。この突発的な行動からもわかるように、梅吉はヘラヘラしている道楽者だ。ツヤはそんな梅吉を時々、叱咤激励しながらも基本的には自由にさせ、自分は「義理と人情」を信条に銭湯「はな湯」をしっかり切り盛りしていた。 花田夫妻と似たようなところがあるのが、スズ子が東京で暮らす下宿屋を営んでいる吾郎(隈本晃俊)とチズ(ふせえり)の小村夫妻だ。おしゃべりなチズは自分から吾郎を口説いて積極的にアプローチしたそう。寡黙な吾郎は愛情表現こそ下手ではあるが、そんなチズにベタ惚れで、力士として相撲部屋で稽古をしていた時、辛くなると逃げ出してチズのところに行くことがあった。その頃の話は明かされていないが、チズが吾郎に未だに「いつもあんたはそうやって」と言っているところから見ると、口調はややキツいがそうやって吾郎を鼓舞していたのだろう。ツヤやチズのようになんだかんだ言いつつ、必ず味方でいてくれる人がいることはとても心強いことだ。たとえ、自分がすごくダメな奴だと思える日があってもそれだけで乗り越えられる。仲良しこよしではないけれど、良い夫婦関係である。 この2組とちょっと系統が異なるのが、スズ子の恩師・羽鳥善一(草彅剛)とその妻・麻里(市川実和子)夫妻である。スズ子と出会った当初に「トゥリー、トゥ、ワン、ゼロ」の掛け声とともにスパルタ指導を行って強烈な印象を残した善一。その“変人さ”は麻里と出会った時も発揮されている。麻里は日帝劇場の近くの喫茶店「バルボア」で働いている時に、善一に声を掛けられ、なんとその1週間後にはプロポーズされ、結婚しているのである。 そうして名曲を次々と生み出している作曲家の妻となった麻里だが、今でも「音楽のことはよくわからないけど」とキッパリと宣言している。麻里には「善一は善一、私は私」という芯のようなものが感じられるのである。花田夫妻や小村夫妻が、「どちらかがガンガン引っ張ってくれているタイプ」だとすれば羽鳥夫妻は「お互いに引っ張りあっているタイプ」といえるのではないだろうか。自立しあって、それぞれの人生を楽しみつつ、好きな人と一緒にいる。そのような夫婦関係もとても素敵だ。 スズ子と愛助の仲はすぐに広まり、善一や麻里も噂が本当なのか聞きにやってくる。久しぶりに羽鳥夫婦の小気味よいやりとりが聞けるのが楽しみだ。スズ子にとって身近なお手本のような羽鳥夫婦は、果たしてどんなことをスズ子に話すのだろう。
久保田ひかる