【ミャンマー】通貨暴落、軍政経済に黄信号 一時7千チャットに、失策続き
軍事政権が統制を強めるミャンマー経済に黄信号がともっている。現地通貨チャットの実勢レートが14日朝までに1米ドル(約147円)=7,000チャット近くに暴落。クーデターから約3年半で、価値が5分の1を割り込む水準まで低下した。強制両替や徴兵制といった軍政の「失策」のしわ寄せが経済界に及び、各地での紛争激化もあって市民は困窮にあえぐ。「(経済崩壊の)カウントダウンが始まった」(ビジネス関係者)との声も出る。 「あまりに早過ぎる」 日本企業の駐在員は、このところの通貨急落に、こうこぼした。ここ数日でチャット安が急加速。今年に入って続いていた緩やかな下落基調が一気に崩れた。14日は午後にかけて揺り戻しの動きも見られたが、底が見えない不透明な状態となっている。 通貨安の原因は、ミンアウンフライン総司令官をトップとする国軍の最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」の失策にあるとの見方が強い。外貨不足に直面した際には強制両替で外貨を「接収」し、昨年10月からの三つの少数民族武装勢力による一斉攻撃を受けて劣勢に立たされた際には徴兵制を導入した。経済への影響を軽視した場当たり的な対応が目立つ状況となっている。 燃油などを輸入に頼る同国では、通貨安はインフレに直結する。軍政はクーデター後から経済統制を強めてきたが、直近では価格統制対象を拡大したりビジネス関係者を相次ぎ拘束したりし、急速なチャット安をけん制しようとしている。 だが、通貨安は一段と加速している。一部に、8月に行われた軍政下で2度目となった事実上の賃上げがチャットの減価懸念をあおったとの指摘が出ている。賃上げは、法定最低賃金を1日当たり4,800チャットという2018年以来の水準に据え置いたまま、2,000チャットの「特別手当」支給を義務化して総支給額を6,800チャットに引き上げるというもの。軍政は昨年10月に同1,000チャットの同手当支給を義務付けたばかりだった。 ■強制両替と輸出不振 中央銀行は外貨売りをアピールしているが、企業は十分な外貨を確保できない状況となっている。輸入代金の支払いに必要な外貨を購入するのに当局の承認が必要だからだ。昨年12月からは、中銀の介入を弱めて輸出入企業間などで外貨を直接取引できるように制度が変更されたが、これは軍政の外貨不足が深刻化しつつあることの裏返しだとされる。 強制両替には2年前から1米ドル=2,100チャットに固定されている公定レート(参考レート)が適用される。実勢レートとの乖離(かいり)が大きく、輸出企業にとっては損失になる。企業の意欲が損なわれ、昨年は輸出不振が顕在化した。 世界銀行によると、ミャンマーの輸出額は年間180億米ドル超に上ったことがあるが、最近は低迷。ミャンマー商業省の公式統計では、23年度(23年4月~24年3月)の実績は150億米ドルを下回った。本年度は輸出を167億米ドルに回復させる目標を掲げている。 実現には強制両替規制の緩和が不可欠だ。中銀は今月8日に緩和を発表したが、輸出企業がチャットに兌換(だかん)しなければならない割合を35%から25%に引き下げるという内容にとどまった。強制両替の対象外となっている外貨について認められているのは、3,300チャット台で推移しているオンライン取引レートでの取引のみだ。各レートの乖離は、企業の利益を圧迫している。 ■紛争と徴兵 国軍は少数民族武装勢力との戦いで、中国に接する北東部シャン州北部の最大都市ラショーを失った。同地域の戦闘は、第2都市のある中部マンダレー地域まで広がっており、バングラデシュに近い西部ラカイン州はアラカン軍(AA)に支配権を奪われつつある。 国軍の態勢立て直しに向け、軍政は2月に徴兵制の実施を発表した。これが市民の恐怖をあおり、若者が国外に逃避しようとする流れを加速させた。企業の間で若手人材の退職が相次ぎ、国外に逃れるために必要な外貨の需要が高まった。 軍政に近い関係者は、紛争で敗北が続いていることや経済が打撃を受けていることで危機感を募らせている。批判はミンアウンフライン氏に向かっている。急進派の仏教指導者が同氏を非難する事例も出ている。中国政府もミンアウンフライン氏への不満を強めているとされる。