保田駅前のカフェがペイフォワード試み1年 「お金の使い方考える機会に」 鋸南(千葉県)
鋸南町のJR保田駅前のカフェ「パクチー銀行」で、客が買ったコーヒー券などを、見知らぬ次の客の飲食に使ってもらう「ペイフォワード」の試みが行われている。経営者の佐谷恭さん(49)は「人を助けるだけではない、お金の使い方を考えるきっかけにしてもらえたら」と話す。 ペイフォワードは、直訳すると「先に払う」。誰かに受けた好意を、見知らぬ別の誰かに返すという考え方を表し、「恩送り」とも表現される。 少年が、誰かから受けた善意を相手に返すのではなく、他の3人に返すことを思いつき、その考え方がいろいろな人に広がっていく、という米国映画「ペイ・フォワード可能性の王国」(2000年)の物語が下地となって社会的に広まったといわれる。 パクチー銀行の営業は、原則的に金曜日~月曜日の週4日。営業日に、11枚つづりで5500円のコーヒー券や、パクチー銀行店内でのみ使える1枚1100円の商品券を買ってもらい、後に来た客の支払いに充てることに賛同が得られた人の券を店の入り口のガラス戸に貼っておく。後の客が希望すれば、その券をその人の支払いに充てる。
積極的に案内はしていないが、メニューの片隅に説明文を載せ、さりげなく客の目に触れるようにしている。 試みを始めて1年。賛同してコーヒー券や商品券を買ってくれた人はこれまでに10人ほど。佐谷さんによると、後に来た客にペイフォワードの券を使うことをすすめても大半は遠慮するというが、円の持ち合わせが少なく、支払いに戸惑う外国人観光客の中には、考え方や仕組みを話すと感心し、納得して利用する人も多いという。 ある時、「内房線の車内に財布や携帯電話を入れたバッグを忘れた」と店に駆け込んできた、若い日本人の男性観光客がいた。パニック状態の男性に、佐谷さんは「恩送り」のコーヒーを勧め、「まあ、落ち着いて」。一服した男性は冷静さを取り戻し、佐谷さんに電話を借りて列車が向かった先々の駅に連絡。無事バッグが手元に戻った、というケースがあった。 「この仕組みが面白いのは、お金を払う人と品物をもらう人が違うところ。ある意味で『お金』の概念を変えている。『ただでコーヒーなどが飲める』と毎日のように使われると困るが、利用してもらって、(社会の)お金に対する捉え方を変えていきたい」と佐谷さんは話す。 パクチー銀行では、ペイフォワードの試みの一環として、1人あたり890円を払えば、酒類を含めて飲料を自由に店内に持ち込めたり、前の客が置いていった飲料を自由に飲んだりできる試みも同時に行っている。 これまでのところ店の経営に影響はなく、当面はこの試みを続けるつもりだという。