風間俊介インタビュー「心の内に抱える“モンスター”の一面」を舞台上で解き放つ瞬間とは
風間俊介にとって約3年ぶりとなる単独主演の舞台『モンスター』。教師と妻、生徒とその祖母というたった4人で繰り広げる物語には現代社会が抱える光と闇の世界が見えてくる。作品への思いをじっくり語ってもらった 風間俊介インタビューフォトギャラリー
■誰しもが心の内側に抱えている“モンスター” 豊かな表現力で魅せる風間俊介という俳優を言葉にすると、“個性派俳優”だろうか。“個性派”では物足りないほど多彩な表現力で魅了し、今では日本のドラマ・映画・演劇に不可欠な存在となった彼は、“怪演”と称されるサディスティックで狂気に満ちた役どころから正義感の強い好青年まで、幅広い役を体現してきた。そんな彼が次作として選んだのは、英国を代表する劇作家、ダンカン・マクミクランが手がけた『モンスター』。まずは、日本初演となるこの話題作への出演を彼が決めた理由について聞いた。 風間俊介(以下、風間): “モンスター”という題名の作品は世界中に多々ありますが、何をもって何を描くのかは作家さんの視点によって異なっていて、それぞれに個性があります。今回の台本を読んだときに、“モンスター”という言葉から一般的に連想される脅威的なものではなく、目には見えない潜在的なものを描くのではないかと理解して、このお話を受けさせていただきました。僕のこの読みはまさに当たっていて、日常の身近なところに潜んでいる怖さというものを象徴していました。 本作では、心に闇を抱える新人教師と、家族から十分な愛情を受けられずに育ち、問題児とされている生徒との対峙を軸に、大人の子育てや責任、未成年の反社会的な行動などを通して、観る側にも、どこか“自分”に通じるものを感じさせる物語が描かれている。風間はこの教師、トムを主演として務め、14歳の生徒、ダリルを若手の実力派俳優として注目を集めている松岡広大が演じる。ほかにトムの妻のジョディ役を笠松はる、ダリルの祖母・リタ役を那須佐代子が務め、たった4人の演じ手が濃密な時間を創り上げていく。風間はさらに、この物語における“モンスター”について語る。 風間: 僕はトム自身も“モンスター”だと思っています。風貌からすると、俗に言う“モンスター”はダリルなので、おそらく舞台に登場したトムをご覧になっても、すぐに“モンスター”だとは思わないでしょう。しかし、トムという人物がいるからこそ、誰の心の中にも “狂気”は潜んでいるのではないか、と僕は考えています。昔の『サザエさん』の主題歌の歌詞に“私もサザエさん、あなたもサザエさん”というフレーズがありましたが、それに似たものを感じていて、トムは皆さんに“あなたもモンスターじゃないですか?”という問いかけをするキャラクターになるのではないでしょうか。そして、僕が考えるこの作品の面白いところは、登場する4人全員が、“モンスター”だということ。あなたもモンスター、私もモンスターと、登場人物たちに潜む狂気を見出したなら、観客の皆さんの心に寄り添えるのではないかと感じています。 ■“光”と“闇”で映し出す人物像 “狂気”に寄り添う。このポジティブな捉え方はどこから来るのだろうか。 風間: “光”と“闇”といいましょうか。人には必ずある二面性だと思いますが、実は僕、自分の“闇”、“黒いところ”が意外と好きです。若かりし頃にダークサイドを描いた役をたくさんやらせていただいたということもありますし、逆に30代になってからは、どちらかというと“光”が当たっているキャラクターを演じる機会が多くありました。この両極を演じたからこそ、良い人物を演じるときは“この人の闇はどこなのだろう”と探しますし、ダークサイドの役を演じるときには、“この人の光はどこなのだろう”と考えます。だから自分のダークサイドの部分を大切にしてあげたいと思っています。今、こうして皆さんの前でお話する時は、光が当たっている面を見ていただいている訳で、色濃く抱えている闇をご覧いただけないことを残念に思うくらいです(笑)。でも、その闇の部分を垣間見ていただけるのが演劇だと思います。僕が演じているのをご覧になって、“こいつはマジなのではないか?”と感じていただけたとしたら、僕の闇が“やっと顔を出していいんですか?”と問いかけている瞬間だと思います(笑)。 人間ならば誰もが持つ“光”と“闇”を、自身が演技を通して実感してきた経験を楽しそうに語る。それは俳優が自分以外の何かになれるからこそ味わえるもの。作品と真摯に向き合い、多くのミッションを成し遂げてきた彼だが、本作には大きな壁を感じているようだ。 風間: 今、稽古に挑む前の僕が思っているのは(取材時は9月)、客観性が必要だということです。トムという役に没入すればするほど、会話が成り立っていないことに気づいてしまう。でも、作品としては会話が成立していないことに気づくのは観客であって、トムという人物を造形できたのなら気づかないと思います。ディスコミュケーションであることに気づかないという関係性を創り上げなくてはならないのです。この核心的な会話不成立に作家の妙も感じられて面白いのでしょうが、僕にとっては立ちはだかっている大きな壁ですね。 20年以上にわたってお芝居をやらせていただいてきましたが、今回の台本は読み物として面白いと思いながら、覚えられる気がしていません。これまでの経験でいえば、役者として役に没入していくと、相手の話を聞いてそこで言葉が生まれてくるんです。でも本作は自分の話をしたり、相手の話をしているようにして自分の話をしたり、一見会話が成り立ってみえるところが恐ろしいです。そして実のところ、徹頭徹尾、成り立っていない。それを自分に言い聞かせながら覚えるのは、今までにないことなので、初挑戦になると思います。ディスコミュニケーションを成立させるには、稽古場で4人が信じられないくらいしっかりしたコミュニケーションを取らなければなりません。ですから、役作りをするというより、この舞台に挑む心づもりをしています。 ■没頭しすぎない役との距離感 風間自身はトムに共感するところはあるのだろうか? 自分が抱いている“モンスター”について聞いた。 風間 共感するところはあると思いますが、同じではありません。例えばトムが感じている気持ちをAという記号に置き換えたとしたら、僕はBあるいはCで、Aに至るのに似通った感情かもしれないけれど、イコールではないですね。しかしトムの突発的な感情には、僕の中にあるものとの繋がりは感じています。ただ、僕のは突発性ではなく、“遅効性の怒り”です。イラッとしたことが起きた時に一度精査して怒りが収まっても、1時間、時には1週間、時には半年くらい経ってから、怒りの一瞬が甦って思い浮かぶんです。そんな自分が怖いと思います。これが僕の”モンスター“で、トムの突発性とは違いますね。 自身が必要だと感じる客観性を用いて、演じる人物を理解しようとしている姿勢からは、作品に挑むわくわくするような気持ちと同時に恐ろしさも感じていることが、伝わってくる。その役との距離感の取り方も絶妙だ。稽古を目前にした彼が台本に向き合う姿が思い浮かぶが、作品から離れた時は何をして過ごしているのだろう。 風間 役に没頭し過ぎてしまうのは、役者自身を破滅させることにも繋がるということ。僕は長生きしたいからその一歩手前に留まって、演じることを楽しみたいと思います。自分のために時間があるとしたら、調べ物をしますね。ディズニーのこととか、気になることがあったら調べ尽くす。最近はスマホで検索することが増えました。もともと、ものすごく活字を欲していたのですが、台本が次から次へと手もとに届くので、今はそれで満たされて本を買う機会は減りました。 風間が台本から読み取ったことを聞いているだけでも、その言葉に表現された世界が眼前に広がるのは、彼が台本と向き合い、調べ物をし、理解が深まっているからこそ。トムとして舞台に立ったその時、その説得力はさらに増すことになるだろう。 風間俊介(KAZAMA SHUNSUKE) 東京都出身。1997年に芸能活動をスタートし、98年にドラマデビュー。1999年、ドラマ『3年B組金八先生』で優等生の仮面をかぶった問題児役を演じて注目を浴び、日刊スポーツ・ドラマグランプリ最優秀新人賞を受賞。他に朝の情報番組『ZIP!』の月曜パーソナリティやアニメーションの声優など幅広く活躍している。近年では舞台『儚き光のラプソディ』(24)、『隠し砦の三悪人』(23)、映画『先生の白い嘘』(24)、ドラマ『『たとえあなたを忘れても』(23)、『silent』(22)など出演多数。 スタイリスト/手塚陽介 ヘアメイク/清家いずみ BY SHION YAMASHITA