【イベントレポート】「せかいのおきく」毎日映画コン大賞に、監督・阪本順治「こんなことあるんだ」
第78回毎日映画コンクールの表彰式が本日2月14日に東京・めぐろパーシモンホールで開催され、各賞の受賞者が登壇した。 【画像】第78回毎日映画コンクールの受賞者、受賞作品の代表者 毎日映画コンクールは、1946年に毎日新聞社とスポーツニッポン新聞社によって創設された映画賞。今回の日本映画大賞には、阪本順治の監督作「せかいのおきく」が選ばれた。江戸時代末期を舞台とする同作では、寺子屋で読み書きを教えているおきく、紙屑拾いの中次、下肥買いの矢亮が心を通わせていくさまが描かれる。おきくを黒木華、中次を寛一郎、矢亮を池松壮亮、おきくの父・源兵衛を佐藤浩市が演じた。 阪本は「撮影日数は12日間で、クランクアップしたときはまだ配給が決まっていませんでした。『できあがったはいいけど、どうなるのか』と思っていたので、こんなこともあるんだなと感謝です」と喜びをあらわにする。また彼は「この映画はもともとモノクロのつもりでした。情報が少ない分、人物の表情に集中できるんです」と説明。企画・プロデュース・美術の原田満生は「このテーマを映画で取り上げることで、少しでも環境問題を伝えることができるのではと考えました」とコメントする。このほか同作は脚本賞、録音賞も受賞した。 また日本映画優秀賞は塚本晋也の「ほかげ」へ贈られた。スタッフとともにステージに上がった塚本は「この映画は、非常に少ない要素で作られています。少ないキャストと徹底されたセット・ロケーション、衣装など。そこからいかに空気感を伝えられるかというのが勝負でした。皆さんががんばってくれたおかげです」と制作陣をたたえる。そして「この映画には小さな子供が出てきます。子供の未来がなんとか、怖くない世の中になってほしいという祈りを込めました。その祈りは伝わったかと思います」と胸中を明かした。 スポニチグランプリ新人賞は「さよなら ほやマン」のアフロ(MOROHA)、「BAD LANDS バッド・ランズ」のサリngROCKがそれぞれ獲得。劇中の衣装を身にまとったアフロは「(本作で)映画というものに初めて触れたのですが、情熱の賜物だなと素直に思いました。その情熱に賞をいただけたと思っています」、サリngROCKは「この賞は、私を映画に出していただいた原田(眞人)監督、共演者、スタッフへの賞だと思っています。『BAD LANDS バッド・ランズ』を代表してここに立たせていただき、ありがとうございます」とスピーチする。「さよなら ほやマン」の監督・庄司輝秋は「(アフロの)“もがき”を堂々とする姿が映画に必要だったためキャスティングしました」とコメント。「BAD LANDS バッド・ランズ」の監督・原田眞人は「サリngROCKの発見は私にとって事件でした。『BAD LANDS バッド・ランズ』のスタッフ・キャストにとっても同様です。この“事件”は名女優に成長します」と手紙を寄せた。 アニメーション映画賞を獲得した「アリスとテレスのまぼろし工場」の監督・脚本を担当した岡田麿里は、「アニメ映画への憧れを前のめりに詰め込んだ作品になっています。そのときの葛藤、情熱、迷いなど、いいことも悪いこともすべてが画面に映っています」と伝える。大藤信郎賞には宮崎駿の監督作「君たちはどう生きるか」が選ばれた。スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫が代表して登壇し、「大藤信郎賞は伝統のある賞。亡くなったジブリの監督・高畑勲がこの賞を欲しがっていました。『風立ちぬ』のとき、獲れず悔しいと言っていたのを思い出します。今回選ばれてうれしいです」とエピソードを披露した。なお宮崎作品が同祭典で賞されるのは今回で7度目となる。鈴木は特別賞も手にした。 監督賞は「月」を手がけた石井裕也が受賞。石井は企画・エグゼクティブプロデューサーの故・河村光庸について「彼は本当にすごい人だと思います。世間や人の批判を気に留めていなかったと思うんです。同調圧力のような得体の知れない空気に抗って、しかも商業映画として成立させようとしていました。全部“河村イズム”を引き継ぐことはできませんが、少しはエッセンスを引き継いでがんばっていきます」と言葉をつなぐ。なお同作では鎌苅洋一へ撮影賞が与えられた。 そして外国映画ベストワン賞はトッド・フィールド監督作「TAR/ター」へ。ドキュメンタリー映画賞は寺田和弘の「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」、田中絹代賞は薬師丸ひろ子へ贈られた。フォトセッションでは鈴木亮平、杉咲花、宮沢氷魚、広瀬すず、八木勇征(FANTASTICS)ら受賞者、受賞作品の代表者が一堂に会した。 ※塚本晋也の塚は旧字体が正式表記 ※宮崎駿の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記 ■ 第78回毎日映画コンクール 受賞結果 □ 日本映画大賞 「せかいのおきく」(監督:阪本順治) □ 日本映画優秀賞 「ほかげ」(監督:塚本晋也) □ 外国映画ベストワン賞 「TAR/ター」(監督:トッド・フィールド) □ 男優主演賞 鈴木亮平「エゴイスト」 □ 女優主演賞 杉咲花「市子」 □ 男優助演賞 宮沢氷魚「エゴイスト」 □ 女優助演賞 広瀬すず「キリエのうた」 □ スポニチグランプリ新人賞(男性) アフロ「さよなら ほやマン」 □ スポニチグランプリ新人賞(女性) サリngROCK「BAD LANDS バッド・ランズ」 □ 監督賞 石井裕也「月」 □ 脚本賞 阪本順治「せかいのおきく」 □ 撮影賞 鎌苅洋一「月」 □ 美術賞 上條安里「ゴジラ-1.0」 □ 音楽賞 ジム・オルーク「658km、陽子の旅」 □ 録音賞 志満順一「せかいのおきく」 □ アニメーション映画賞 「アリスとテレスのまぼろし工場」(監督:岡田麿里) □ 大藤信郎賞 「君たちはどう生きるか」(監督:宮崎駿) □ ドキュメンタリー映画賞 「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」(監督:寺田和弘) □ TSUTAYA DISCAS 映画ファン賞・日本映画部門 「劇場版 美しい彼~eternal~」 □ TSUTAYA DISCAS 映画ファン賞・外国映画部門 「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 □ 田中絹代賞 薬師丸ひろ子 □ 特別賞 鈴木敏夫(スタジオジブリ プロデューサー)