アニメ「ダンまち」第5期「Re:ゼロ」第3期は最大の“見せ場”に エピソードの“意義”を原作から振り返る
大森藤ノのライトノベル『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』が、放送中のTVアニメ第5期でストーリー上でも最大級の激震に見舞われている。長月達平による『Re:ゼロから始める異世界生活』のTVアニメ第3期も、主人公のナツキ・スバルをとてつもない試練が襲っている。シリーズを追ってきた人には毎週がドキドキの連続で、原作を読み終えている人はこれから起こるスリリングな展開を、息を呑んで見守っている。原作シリーズを改めて振り返り、放送中のアニメが描いているエピソードの意義を問い直す。 フレイヤが決断した。TVアニメ第5期の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかV 豊穣の女神篇』で、主人公のベル・クラネルを自分のものにしようと、女神のフレイヤが最強と言われる自身の【ファミリア】の団員を動かした。第5話「侵略」では、ベルが眷属として共に歩んできた女神ヘスティアが、【フレイヤ・ファミリア】の猛攻で団員たちが傷つき、命すら奪われようとしている状況に屈し、ベルをフレイヤに引き渡した。 フレイヤがベルに強い関心を抱いている描写は、「ダンまち」シリーズが始まった当初からたびたび登場してきた。第1巻ですでに「怪物祭(モンスターフィリア)」のために地上に連れて来られたモンスターをベルにけしかけ、美の女神の座をフレイヤと争っていたイシュタルがベルを手に入れようと動いた時は、【フレイヤ・ファミリア】を総動員して【イシュタル・ファミリア】を潰し、イシュタルを天界へと還してしまった。 だからいつか、フレイヤがベルを奪いに行くことは予想されていた。テレビアニメの視聴者がどういうことだと驚き、原作を読んでいた人たちもそうだったのかと感じたのは、シル・フローヴァという少女とベルとのデートから流れるように、フレイヤの決断というシーンへと至ったことだ。ここでようやく、シルの特別さが浮かび上がった。 シルはベルがよく行く酒場「豊穣の女主人」の店員のひとりで、ベルが迷宮のある街・オラリオに来た当初から、いろいろと親切にしてくれた。ダンジョンの探索に行くベルに弁当を作ってあげたり、お守りの首飾りを渡してあげたり。首飾りはベルがピンチになった時に身代わりとしての効果を発揮してベルを救い、ベルが英雄への道を突き進むきっかけを作った。 このように、シルはベルにとって何か意味のある存在といった描かれ方がされていたが、ベルの主神のヘスティアやベルが憧れるアイズ・ヴァレンシュタイン、シルとは同僚で悲劇的な過去を持つリュー・リオンといったヒロインたちと比べると、目立つ存在ではなかった。 それでも何かあると思わせていたシルの正体が、原作では『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか16』の巻末、テレビアニメの第5期では第4話「神と娘」の終わりで本格的に明かされた。そして、原作17巻の異様とも言える状況であり、18巻で繰り広げられる激闘へと移っていく。 その激闘は、TVアニメ第5期のオープニングで仄めかされている。シルやリューが働く酒場の女主人、ミア・グランドがなぜか手にスコップを持って、【フレイヤ・ファミリア】の団長でオラリオ唯一のLv.7に達した「猛者(おうじゃ)」オッタルと対峙していたり、やはり【フレイヤ・ファミリア】の副団長でLv.6のアレン・フローメルとベルが追いかけっこをしていたりと、何かとてつもないことが起こっていることを伺わせる。TVアニメ第5期の終盤はそうした激闘に次ぐ激闘になるだろう。 シルという酒場の街娘によるベルへの優しい振る舞いと、フレイヤのベルを注視し横槍を入れてきたイシュタルを排除する容赦のない態度を途切れず描いてきたシリーズが、原作16巻なりTVアニメ第5期でシルとフレイヤの関係を明示することで、シリーズでも最大級のターニングポイントを迎えた。結末がどうなるかはTVアニメの続きを見てのお楽しみとして、その後に起こることがこれからの興味の的となる。 それは、ベルとアイズの関係であり、ベルやアイズの常人とは違った能力の真相であり、そしていつか訪れる「隻眼の黒竜」との戦いの行方といったもの。クライマックスへと進むシリーズの今後を、12月15日刊行の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 20』と、2025年1月15日に発売となるアイズと【ロキ・ファミリア】を中心に描かれているシリーズ最新刊『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア15』から推察しよう。 『Re:ゼロから始める異世界生活』のTVアニメ第3期『Re:ゼロから始める異世界生活3rd season』も展開がなかなか凄まじい。水門都市プリステラに王選候補者たちが集まって、探り合いをしながら交流を深めていたのも束の間、世界を脅かす魔女教の大罪司教が4人も集まって暴れ回り、ナツキ・スバルやエミリアたちを危機に陥れる。 大罪司教はそれぞれがとてつもない異能力の持ち主で、TVアニメの1期に登場した「怠惰」担当のペテルギウス・ロマネコンティだけでも、相当な苦戦を強いられた。それと同じかより強烈な個性と強さを持った大罪司教たちの襲撃は、プリステラに集まっていたエミリア以外の王選候補者たちの中にも傷跡を残す。後々まで影響を及ぼす展開もあるだけに放送から目が離せない。 ナツキ・スバルにとっても魔女教との激突は大きな意味を持つ。現代の日本でひきこおりをしていたナツキ・スバルが異世界へと引き寄せられた背景に、魔女教が信奉する「嫉妬の魔女」サテラの存在が疑われている。死ぬと時間が巻き戻って何度でもやり直しをさせられる状況に置かれ、死ぬ痛みと共に何度繰り返しても突破できない苦しみを味わうことになったのも、サテラの介在があるようだ。 物語の世界を裏側で支える魔女教と激突する点で、原作の16巻から20巻あたりと、これを描くTVアニメの第3期はシリーズでもなかなかの読みどころであり、見どころだ。とりわけプリステラに現れた「暴食」担当の大罪司教は、異世界に来たナツキ・スバルが世話になることになったロズワール邸でメイドをしていた双子の姉妹の妹、レムの存在を奪った因縁の相手。『Re:ゼロ』のキャラクターでも屈指の人気を誇るレムをストーリーの上に取り戻す意味からも「暴食」との激闘の行方から目が離せない。 エミリアと同じ王選候補者のクルシュ・カルステンは、レムと同じ時に「暴食」の権能で記憶を奪われていたが、プリステラでは「色欲」の大罪司教、カペラ・エメラダ・ルグニカとの邂逅でさらに苛烈な運命を背負わされる。絶望しかないような状況が続くが、過去にも白鯨であり「怠惰」のペテルギウスであり「腸狩」の暗殺者、エルザ・グランヒルテといった難敵を乗り越えてきたナツキ・スバルだ。そうした過去の戦いを思い出しつつ未来に向けて希望の火を点し続けよう。
タニグチリウイチ