Z世代に広がる「静かな退職」 多様な働き方の一つに過ぎない
「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉をご存じでしょうか。これは、企業に属しながらも、やりがいを求めず必要最低限の仕事のみを淡々と遂行するような働き方を指します。会社から実際に退職するのではなく、あたかも退職したかのように、心理的・感情的に仕事に対するエネルギーを失っている状態を意味します。 元々この言葉は2022年に、米国のTikToker(ティックトッカー、TikTok投稿者)が拡散したことで広がりました。現在はZ世代を中心に同様の傾向が見られます。一見すると、怠慢や職務放棄のように受け取られがちですが、Z世代はただコスパ良く働きたいがためにこの働き方を選んでいるのではありません。むしろ、自分らしさや多様性にフォーカスした生き方が受け入れられやすくなった時代であるこそ、仕事よりもプライベートに比重を置いた働き方が広がったのではないかと私は考えています。 今回は「静かな退職」が広がっている背景とともに、事例も示しながらZ世代の働き方に対する価値観とその意義を考えていきます。 ●コロナ禍がZ世代のスタンスに大きな影響 「静かな退職」が広まったきっかけの一つとして、新型コロナウイルス禍の影響は無視できません。 コロナ禍の不況による就職難や大量解雇などを受け、多くの人が将来に不安を抱え、自分の生き方や仕事の関係性を問い直すタイミングが訪れました。その結果、1980~90年代半ば生まれのミレニアル世代までは理想とされてきた、昇進や昇給など上流のポジションやステータスの獲得を目指すことよりも、Z世代はいかに自分の人生を楽しむかを重視するようになりました。 Z世代はコロナ禍による解雇や失業を目の当たりにしているため、社会情勢によって会社から裏切られることを恐れ、会社に対して変に期待しない思考を持っています。だからこそ、時間的あるいは身体的なリスクを負ってまで仕事に邁進(まいしん)するようなスタンスではなく、省エネ的働き方で着実に年収を上げ、長期的に見た経済的安定性を求めるようになったのではないかと私は考えます。