アップルからの“厳格さ”から解放されたジョナサン・アイブが手がける「134億円自腹投資」の新事業とは
iPhoneやApple Watchといった数々の大ヒット製品のデザインを手がけ、アップル社成功の立役者と呼ばれたジョナサン・アイブが突然、同社を退社したニュースは世界を驚かせた。あれから5年、シリコンバレーで「消息不明」と噂されていたアイブが米紙「ニューヨーク・タイムズ」に登場。アップルを離れた理由や、OpenAIと共同開発するAI搭載の新型デバイスの進捗などについて語っている。 【画像】アップルからの“厳格さ”から解放されたジョナサン・アイブが手がける「134億円自腹投資」の新事業とは ジョナサン・アイブ(57)がアップルのCDO(最高デザイン責任者)を退いて、まもなく5年が経つ。 現在アイブは、米サンフランシスコに拠点を構える。アイブが所有する建物群はハンノキの木々に囲まれている。 私たちはそのうちのひとつで、ジャクソン・スクエアにある築115年の2階建ての建物にいた。1840~50年のゴールドラッシュの時期に発展したジャクソン・スクエアは、チャイナタウンと金融街の間に位置している。 「最初にこの物件を買って、それから気づいたんです。ここは広いし、街の中心部にあるじゃないかとね」と、仏高級眼鏡ブランドであるメゾン・ボネの老眼鏡をかけたアイブは言う。 そこはもともと駐車場だった。がらんとした土地を目の当たりにすると、そこにないものが見えるとアイブは言う。たとえば庭、そしてアイブが愛するロンドンのリバー・カフェのように、人が集まって交流できる場所──アイブは次々と近隣の物件を購入し、最終的にはそのエリアの半分の土地の所有者となった。購入した不動産の総額は9000万ドル(約134億3600万円)に上る。 6月下旬の朝、自身が購入した土地から空を見上げながら、アイブは言う。 「5年もの間、私たちの計画について誰にも話していませんでした。おかしな話ですね」
アップルの単調で厳格な仕事から抜け出して
アイブは2019年、キャリアの絶頂期にアップルを退社した。同社で過ごした27年間でアイブは、iPhoneをはじめ、ミニマリストの美学に基づいた数々の大ヒット製品を生み出してきた。 その洗練されたデザインと包装は、テレビから水のペットボトルに至るまで、あらゆるプロダクトのデザインに大きな影響を与えた。さらにアイブは、2015年に公開された映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でライトセーバーのデザインについてアドバイスをし、2016年にはメットガラでテイラー・スウィフトと共に司会を務めた。デザイナーのなかでも稀有な存在だと言える。 アップル退社後に自らのデザイン会社LoveFrom(ラブフロム)を設立すると、アイブは表舞台から姿を消した。同社のウェブサイトは、オリジナルのフォントで 会社名が表示されるだけのシンプルな作りだ。それを見たシリコンバレーの人々は、「アイブは会社ロゴのデザインに5年もかかっている」と冗談を言った。 だがその裏で、誰もが不思議に思っていた──いったい、アイブは何をしているのだろう? アップルから退社することを考えはじめた頃、アイブは工業デザイナーで友人でもあるマーク・ニューソンに意見を求めた。オーストラリア出身のニューソンは、2014年にアップルに入社し、Apple Watchの開発に携わった人物だ。彼はアイブに、多様なプロジェクトを請け負えるよう、自身のチームを作るべきだと言った。 ニューソンは当時を振り返り、アイブにアップルでの単調で厳格な仕事から抜け出してほしかったと語る。「自由になったらどうか、とアドバイスしました」と彼は言う。 LoveFromを起業してから、アイブは自分の直感を信じるようにしている。直感に従ってジャクソン・スクエアの物件を購入したところ、それがAirbnbのブライアン・チェスキーCEOと仕事をするきっかけとなり、さらにOpenAIのサム・アルトマンCEOとの新プロジェクトにつながった。 アイブはこの5年についてこう語る。 「私はこの数年間で、これまで以上に自分の直感を信じるべきだと学びました。それは私にとって、最も楽しいと感じることでもあります」(続く) 50代で誰もが羨むキャリアに終止符を打ち、新たな挑戦を始めたアイブ。続編では、盟友スティーブ・ジョブズとのサンフランシスコにまつわる思い出や、OpenAIと進めているAIを搭載した新型デバイスの開発について語る。
Tripp Mickle