新たな「106万円の壁」対策は企業負担の暫定措置
さらに高い「130万円の壁」
厚生労働省の試算では、年収が106万円になると、厚生年金保険料、協力けんぽの健康保険料の合計は約16万円生じ、手取りは約90万円となる。社会保険料の労働者負担は、年収の平均15%程度となる計算だ。106万円の手取りを得るためには、125万円程度の年収になるように、労働時間を増やす必要がある。時間当たり賃金が変わらない場合、労働時間を約18%以上増やすことになる。週20時間働いている場合には、週23.6時間、週5日働いている場合には、一日当たりの労働時間を4時間から4.7時間程度に増やす必要がある。 一方、年収が130万円を超えるとパートの主婦などが扶養を外れ、自ら基礎年金、国民健康保険料を支払うことが求められる。いわゆる「130万円の壁」である。年収の一定割合である厚生年金の保険料とは異なり、基礎年金の保険料は毎月1万6,980円、年間20.4万円となる。これに国民健康保険料を加えると、年収160万円で支払うことになる社会保険料などは年間約30万円となる。106万円の壁で生じる社会保険料負担よりも大きい。 さらに、年収が106万円になって厚生年金保険料を支払えば、将来保険給付を受けることができる。しかし、130万円になって配偶者の扶養をはずれ、基礎年金などの保険料を自ら支払うようになっても、将来の基礎年金の給付額が増える訳ではない。この点から、「106万円の壁」よりも「130万円の壁」の方がより高い壁である。
「第3号被保険者」制度を大きく見直す必要
所得税の支払いが生じる「103万円の壁」も社会保険料に支払いが生じる「106万円の壁」も、労働時間を多少延長することで、手取りを減らすことを回避できる。壁が生じるのは、労働者や企業側が、年収が壁の水準を超えないように調整する慣例が定着してしまっている面も少なくないだろう。また、心理的な壁という側面も強いだろう。こうした点がより認識されることで、「103万円の壁」も「106万円の壁」を一定程度克服することは可能ではないか。 他方、「130万円の壁」の問題を解決するには、専業主婦を前提とした配偶者扶養制度、「第3号被保険者」制度を大きく見直すことが必要である。 年収の壁問題を完全に解消することはできないが、問題を緩和するには、すべての人が公的年金制度、公的医療制度に加入し、自ら保険料を支払うようにしていく必要があるだろう。さらに、「第3号被保険者」を最終的には廃止していく必要があるだろう。 そのうえで、社会保険料を負担できない人、老後に十分な社会保険給付を得られない人をしっかりと支援するセーフティーネットを確立していくことが重要だろう。 (参考資料) 「パート年金保険料肩代わり」、2024年11月16日、日本経済新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英