2024年、どうなるウクライナ戦争!?【海戦編】
いまだ終わらない、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻。現在、金沢工業大学大学院教授を務める伊藤俊幸元海将に、海戦からの視座より2024年、ウクライナ戦争がどう推移するか、語っていただいた。 【写真】黒海を死守するロシアの潜水艦 伊藤元海将は、潜水艦「はやしお」艦長を務め、1998年リムパック演習で、米強襲揚陸艦隊、全15隻を撃沈。その後、外務省に出向し、在米国日本大使館防衛駐在官に。第二潜水隊司令を経て、自衛隊初の情報機関となる情報本部情報官などを歴任した人物だ。当連載コラムをまとめた書籍、『軍事のプロが見たウクライナ戦争』にもプロとして登場していただいている。 * * * ――ウクライナのゼレンスキー大統領は「黒海の主導権は、水上ドローン編隊で露海軍艦隊から奪還した」と言ってますが、海戦のプロから見ていかがですか? 伊藤 今の黒海は"池"といってもよい状態なのでこれができたのでしょう。 ――"池"と言いますと? 伊藤 黒海から地中海に通じるボスポラス海峡とダーダネルス海峡を、トルコが完全に封鎖しているため、ロシアは最新鋭艦の増援ができません。そもそもウクライナには海軍がありませんから、この戦争における黒海艦隊の任務は、ウクライナ本土へのミサイル攻撃だけといってよい状態です。さらに沈められた「モスクワ」もそうですが、黒海艦隊は40年以上前の古い水上艦と潜水艦ばかり。言っては失礼ですが、現代戦に適した警戒・監視・防御能力がありません。だから、ウクライナは地対艦ミサイルと空中・水上ドローン、そして特殊部隊で黒海艦隊の動きを封じることができたわけです。 ――中古艦隊なのですか? 伊藤 そうですね。高高度から飛来するミサイルは迎撃できますが、水面ギリギリを飛行し最後にポップアップするシースキミングミサイルへの対応能力がありません。同じように海面上を夜間に近接する小型の水上ドローンなどを早期に探知し、これを迎撃する能力もありません。「現代兵器に対する防御」はできない艦隊なのです。 ――日本風に言うと、想定外ですか? 伊藤 今の黒海艦隊に所属する軍艦にとってはそうですね。 ――ゼレンスキー大統領は、「ウクライナからの穀物海上輸送を、西側支援国が軍艦で警護する」と表明していますが? 伊藤 トルコがOKしないと、西側支援国軍艦も両海峡を通って黒海に入れません。今黒海で警護できるのはトルコ海軍だけでしょう。 ――もし、トルコ海軍がウクライナからの穀物輸送警護に出たら、露海軍艦隊はやりますか? 伊藤 手は出せないでしょうね。ロシアとトルコは友好関係にありますから。また、ロシアが妨害するとしても、キロ級潜水艦しか使えません。だから、トルコが海軍を出したら、ロシアは「しょうがないな」という対応になるのでしょう。ゼレンスキー大統領が、いかにトルコを味方につけられるかにかかっていますね。 ――仮の話で、伊藤提督が露海軍黒海艦隊の司令官ならば、今残っている戦力をどう使いますか? 伊藤 艦対地ミサイルはまだ補充できるでしょうから、引き続き黒海の遠方海域からウクライナ本土にこれを撃ち込むために使うのでしょう。キロ級潜水艦もミサイルは撃てますから。ただし、自艦防御能力があまりに弱い。「起死回生せよ」とモスクワから言われても、今の黒海艦隊の能力では「無理です」と言うかもしれませんね。 ――すると、モスクワには何をお願いするのですか? 伊藤 今、世界の武器見本市に行くと、会場の入り口にある最初の展示品は無人兵器と対無人兵器コーナーです。「これこそ目玉商品」と各国海軍は売り込んでいるのです。私が現役の頃は、無人兵器は偵察か監視しかできないんじゃないの、と正直なところ視野に入っていませんでした。しかしウクライナ戦争で初めて、戦闘に有効だと世界中が知った。 だから、私が黒海艦隊司令官ならばモスクワに「対無人兵器の搬入」を進言しますね。モスクワのクレムリンに来襲したウクライナの無人機は落とされているじゃないですか。だから、「お願いだからその兵器をこちらにも回してくれ」といいますね。 ■戦争の出口