クロップ監督の引き際。残されたリバプールの未来は明るいのか? ファーガソンと比較する名将退任のタイミング【コラム】
リバプールは1月26日、2015年10月から指揮を執るユルゲン・クロップが23/24シーズン限りで退任することを発表した。約9年に及ぶ長期政権でクロップがクラブに残したものは多いが、長期政権後に苦しむクラブは過去に数多くあった。果たして、クロップ監督退任のタイミングはどうだったのか、他クラブを例に考える。(文:内藤秀明)
●「いまだに疑問視…」名将の“辞め方” 1月26日、名将ユルゲン・クロップが今シーズンいっぱいで退任することをリバプールは発表した。この寝耳に水の発表に多くのフットボールファンは驚き、とりわけリバプールファンは悲しさと寂しさに襲われることになった。残り4ヶ月という終わりが明確にあるクロップリバプールは、これまでの桜花爛漫さだけでなく、どこか儚さも見せてくれるのだろうか。見逃せない試合が続くことは間違いない。 ただし今のリバプールは、クロップが去った後も枯れ木のような惨状になるとは思えない。そういう意味では、今回のクロップの退任事件は、桜で例えるのは不適当なのかもしれない。むしろクラブのクレストに描かれているライバーバードのごとく、立つ鳥跡を濁さずと言ったところか。 というのも現在のリバプールのスカッドは伸び代のある選手が多く、来季以降も監督人事を間違えなければ、さらに飛躍する可能性を大きく感じさせる。その辺りは近隣のライバルクラブ、マンチェスター・ユナイテッドのレジェンド監督の退任事例とは大きく異なる。 振り返ること11年前、在任期間の27年間で38個ものタイトルを獲得した名将サー・アレックス・ファーガソンが、リーグタイトル獲得という有終の美を飾って退任した。筆者はこの老将に対して、あるいは彼の在任期間に対して心より尊敬の念を抱いているが、後任への受け渡し方としては綺麗だったか、いまだに疑問視している。 ●引き継ぎ下手だったアレックス・ファーガソン わかりやすい問題としては攻撃面だ。2011年の春にペップ・グアルディオラ率いるバルセロナにチャンピオンズリーグ決勝で1-3の完敗したユナイテッドは、その後の残り2年のファーガソン在任期間中、バルサ的ポゼッションなサッカーへの転換を試みた。 しかしその試みは非常に中途半端に終わったと言わざるを得ない。 まずビルドアップ面では中途半端にバルセロナを模倣して終わった。補強面でも、ラストイヤーに日本代表MF香川真司を獲得することでよりポゼッションへの転換を目指すかと思われたが、最終的に夏の移籍市場終了間際にオランダ代表FWロビン・ファン・ペルシーを獲得し、彼の得点能力に頼ったダイレクトなフットボールに帰着した。しかもこのストライカーがケガがちで、継続的な活躍が望めないこともあり、後任者たちは彼を絶対的なスタメンとして据えることはできず。目の前の試合で勝つための超短期的な強化だったと言える。 また中盤には、当時23歳のトム・クレバリーや、20歳のジェシー・リンガードなどが在籍し、最終ラインには23歳クリス・スモーリング、22歳ラファエル&ファビオ兄弟、21歳フィル・ジョーンズなど若手はいるにはいた。ただし重要な試合では30代を超えるリオ・ファーデナンド、ネマニャ・ヴィディッチ、パトリス・エブラ、マイケル・キャリック、ライアン・ギグスなどのベテラン陣にまだまだ依存していた。 それどころか中盤の枚数を不十分として、2012年冬には一度引退した37歳のポール・スコールズを呼び戻し、残り1年半稼働させて中盤をなんとか成立させていたほどだ。 振り返るとラストイヤーは、ファーガソンの神通力で優勝を成し遂げたが、その後もリーグ王者をその後も目指せるスカッドではなかった。後継にも優しい補強をしていたのはGKくらいだろうか。 その後の失敗はもちろん多くの優秀なスタッフの退任や、デイビッド・モイーズの実力不足、そもそもオーナー問題など、様々な問題が一因としてあったのは明らかである。ただファーガソンもファーガソンで、引き継ぎ下手だったことも間違いない。 この事例と比べると、クロップの辞め方は非常に綺麗だと言える。 ●クロップ監督が去るリバプールの未来は明るいのか 昨年の冬の時点では7位に沈み、一つの時代の終わりを感じさせ、解任の危機に晒された。普通ならこのシーズンで解任あるいは、退任することになる。しかしクロップのリバプールは脅威の粘り強さを見せて、シーズン終盤にはリーグ戦で破竹の7連勝。チームに再び火を入れることに成功した。 23年の夏の補強でも、中東からの引き抜きというイレギュラーな要素があったとはいえ、レッズは中盤の総入れ替えにも成功する。また最終ラインに関しては24歳のフランス代表DFイブラヒマ・コナテや、21歳のイングランド人DFジャレル・クアンサーなど、プレミアでも通用する若手~中堅のDFを台頭させた。 前線に関してエジプト代表FWモハメド・サラーの後任者不在という問題こそあるが、まだ31歳で少なくとも先2~3年は稼働が見込める上に、ファン・ペルシーとは違って怪我をほとんどしない。また前線はスカッドが厚いので大きな問題になりにくい。 こう考えると明るい未来が見える状態での退任であり、さすがクロップという引き際である。本人も「スカッドのポテンシャルが上がってきたから、辞めることを決意した」と語るだけのことはある。 もちろん二つの時代を厳密に比べることは出来ない。とはいえユナイテッドの苦しみも見てきた筆者として、今回の退任タイミングは、間違いなくベターであり、悪くないものに思えた。 所属クラブにリスペクトして誰とは言わないが、ちょうど獲得したいと思える優秀過ぎるOB監督が台頭したタイミングということもあり、なおさらである。 (文:内藤秀明)