『ブギウギ』趣里×菊地凛子による圧巻の神回 「別れのブルース」「大空の弟」に涙が溢れる
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)第66話は、スズ子(趣里)が富山で、茨田りつ子(菊地凛子)が鹿児島で、それぞれ慰問先にて歌を届ける。スズ子は被災者や宿泊先の旅館で出会った女中の静江(曽我廼家いろは)、りつ子は海軍基地の特攻隊員に向けてと、対照的だった。 【動画】茨田りつ子(菊地凛子)「別れのブルース」未公開カットも含む特別編集版 肩を大きく露出させたブルーのロングドレスを着たりつ子。その表情には戸惑いの色が見える。「おそらく彼らは二度と戻ってくることはない」という横井少佐(副島新五)の言葉がりつ子の脳裏をよぎっていた。 軍歌は歌えないりつ子と死にゆく彼らにせめていい歌を聴かせてやりたい横井との折衷案として出たのが、隊員たちが望むものを歌うということ。りつ子が隊員たちに希望を問いかけると、彼らから口々に挙がったのが「別れのブルース」だった。日本の戦況がますます悪化する中、敵国の音楽ジャンルを軍の講堂に響かせるなど言語道断。りつ子が横井に目を向けると、横井は黙って講堂を後にした。横井自身もまた葛藤しているのだ。 りつ子は、楽団の演奏に乗せて「別れのブルース」を歌唱。講堂の窓には命令が出ればすぐ出撃できるようにゼロ戦が並んでいる。隊員が一人ひとり立ち上がり、「勇気づけられました!」「もう思い残すことはありません!」「迷いはありません!」「いい死に土産になります!」とりつ子へと感謝を伝える一方で、彼女の胸に去来していたのは言いようのない悲しみ、切なさ。本来は生きる勇気を与えるはずの自分の歌が、彼らを死へと鼓舞させている――りつ子は舞台袖でうずくまり咽び泣くしかなかった。 茨田りつ子のモデルである淡谷のり子は青森市で生まれ育った。NHK青森放送局で2023年12月15日に放送された『発見!あおもり深世界』の「歌に生きて 淡谷のり子の素顔」では、今回の特攻隊のエピソードが淡谷から語られている(※)。 「特攻隊のときだけは、わたし初めて舞台の上で泣きました」 「命令が来なきゃいいなと思って、歌っている間に来たらごめんなさいって言うんですよ。来なきゃいいですねと思っていたら、来ましたね。すっと立っていくのかと思ったら、その兵隊さんが笑顔で私にこうやって、あいさつしていなくなる。そのときくらい悲しいと思ったことはないですね」 現実はドラマで描かれているよりも、さらに悲惨な状況だったことが分かる。演じる菊地凛子も、当然そのことを知った上での芝居だったことだろう。特攻隊の声を聞き、堪えていた涙が溢れ出す菊地の演技は、茨田りつ子として初めて見せた悲しみに打ちひしがれる姿でもあった。 一方のスズ子は、境内で開いた慰問公演が最後の曲に差し掛かっていた。そこに静江が娘の幸を連れてやって来る。彼女は戦争で夫を亡くしたことを“誇り”だと言い、「お国のためにその命を捧げた」「つらくはない、悲しくもない」と必死に自分の気持ちに蓋をしていた。そんな静江にスズ子は六郎(黒崎煌代)を亡くした自分の思いを重ね、歌を届けることを決意。そこで選んだのが「大空の弟」。静江の夫と同じ南方で戦死した六郎を思い歌った歌だ。 軽やかなテンポアレンジに、六郎からの手紙を朗読する演出が新たに加わった「大空の弟」を聴き、静江は戦地から届いた夫のハガキを握りしめ涙を流していた。静江は気持ちの蓋が開いたように、スズ子へと夫との思い出を話し出す。それは六郎の亀のエピソードのように何気なく、くだらない話。けれど、そこにこそ夫婦の愛が詰まっている気がした。 次週、第15週のタイトルは「ワテらはもう自由や」。広島に原子爆弾が投下された昭和20年8月。終戦の日が訪れようとしていた。 参考 ※ https://www.nhk.or.jp/aomori/lreport/article/000/38/
渡辺彰浩