『作りたい女と食べたい女』の“心地よさ”とは? 比嘉愛未&西野恵未の“幸福な出会い”
パートナーや友人に限らず、人と人が深く結びつくのにはワケがある。はじめは気づかないかもしれない。けれど、「もし出会っていなかったら」と後で振り返った時に怖くなるような出会いが、実はこの世にたくさんある。 【写真】『作りたい女と食べたい女』パンケーキを前に微笑む比嘉愛未 NHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』の野本さん(比嘉愛未)と春日さん(西野恵未)も出会うべくして出会った2人だ。 本作は、ゆざきさかおみによる同名漫画(通称『つくたべ』)を原作としたドラマ。同じマンションの隣の隣に住む女性2人の“食”を通じた交流が描かれる。 野本さんと春日さんは、生まれ故郷も違えば、同級生でも同僚でもない、顔見知り程度の間柄だった。そんな2人の交流は野本さんが作りすぎた料理を春日さんにおすそ分けしたことに始まる。ひとり暮らしで少食だけど、たくさん作りたい野本さんと、たくさん食べたい春日さん。目と鼻の先にたまたま利害が一致する人がいた……というのはすごいといえばすごいが、結びつきとしては弱い。それでもなお、2人は頻繁に食事を共にし、やがてはクリスマスや年末年始といった特別な日も一緒に過ごしたい相手として互いの顔を思い浮かべる関係となっていく。 そこにはやっぱり何かしらの理由があるもので、野本さんと春日さんの場合はそれぞれに積もり積もった小さな傷が互いを引き寄せた。例えば、野本さんは料理が好きで、作ることそのものに喜びを感じているにもかかわらず、「いいお嫁さんになれるね」と勝手に男性目線で評価されることが多い。 対して、春日さんは食べることが好きなのに、食事の量や質において父親や弟が優先される家庭で育った。定食屋に行けば、頼んでもいないのに白米の量を小盛りにされることも。そもそも“大食漢”という言葉にも大食い=漢(男性)という前提があり、春日さんのようにたくさん食べる女性を排除しているとも言える。これらはあくまでも一例で、2人はあらゆる偏見や決めつけに出会うたび傷ついてきた。 そんな2人が互いの「作りたい」と「食べたい」を少しの調味料も混ぜず、素のまま味わい尽くしながら、これまで受けた傷を癒していく過程を本作は静かに映し出す。驚くことに、このドラマには人と人の関係性を描く上で欠かせない“対立”が一切ない。それは、野本さんと春日さんが配慮し合って、互いにとって心地いい空間づくりに努めているからだ。“遠慮”ではなく“配慮”であることが重要で、特に注目したいのが春日さんが思っていることを相手に主張する場面。淡々としているが、明瞭ですっと心に届く物言いに、これまで演技未経験の西野がオーディションでこの役を射止めた理由が隠れている気がした。 そして、そんな春日さんと交流を深める中で、自分の周りの人とは異なる部分も受容できるようになっていく野本さんも見どころ。比嘉は春日さんが引き出す野本さんの“彩り”を表現し、西野もまたその“彩り”に触れた春日さんの小さくとも目に見える変化を私たちに伝えてくれる。一方通行じゃない、互いに影響し合いながら引き出される芝居と、なにより2人の間に流れる穏やかな時間が心地いい。野本さんと春日さんがそうであるように、比嘉と西野も出会うべくして出会った俳優同士だと感じた。 シーズン1では野本さんが春日さんに対する感情に一つの結論を出すところまでが描かれた。では、春日さんにとって野本さんとは? という疑問の答えが1月29日から始まるシーズン2では明らかになっていくのではないだろうか。その前に1月9日からはシーズン1の全10話が再放送されるため、すでに視聴済みの方もぜひ奇跡的な出会いをプレイバックしてほしい。
苫とり子