中国EVが欧州市場を席巻する? 新興勢力「ジーカー」「シャオペン」の野望、EU追加関税検討も、立ちはだかる中国“報復リスク”のジレンマ
欧州メーカーとの深い関係
ジーカー・シャオペンいずれも、欧州の自動車メーカーにとって脅威であるが、実は深い関係があり純粋にライバルといってよいのかどうか難しい。 ジーカーの親会社である吉利汽車の創業者・李書福氏は、2018年からメルセデス・ベンツの主要株主だ。2024年3月末現在で9.69%の株式を所有しており、吉利汽車とメルセデス・ベンツは、ハイブリッドガソリンエンジンの開発を発表している。過去には、両社はコンパクトカーのスマートブランドの合弁会社を設立していた。 シャオペンは、フォルクスワーゲンと密接に関係している。フォルクスワーゲンは、2023年7月にシャオペンの株式を4.99%取得すると発表。シャオペンのSUV G9をベースに、中国で販売するフォルクスワーゲンブランドEVを共同開発中である。 フォルクスワーゲンは、中国のEVメーカーとのパートナーシップは、 「中国戦略の基本で、EVラインアップを拡充させると同時に、次のイノベーションに備える」 としているが、一方で足元の欧州市場を中国のEVメーカーに荒らされるリスクも残る。
ハイブリッド優勢の欧州市場
ジーカーやシャオペンの欧州上陸はまだ始まったばかりであり、価格面では中国勢が優位とされているが、成功するかどうかは未知数だ。 欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると、2024年第1四半期の自動車登録台数が対前年4.4%増加、うちEV販売台数は33万2999台と対前年3.8%増加し、新車全体に占める割合は13%だった。一方、ハイブリッド車(HV)は、80万1315台と対前年19.7%も増加し、新車全体に占める割合も2023年の24.4%から29%へ大幅に増加している。 現時点における欧州市場は、EV販売が堅調に推移しているものの、HVのほうがはるかに売れている。ここしばらくは、HVが優勢な状況が続くと思われるため、EVだけで勝負するならばその先の 「未来の種まき」 と割り切る必要があるかもしれない。また、EUは今週中にも、中国製EVに追加関税を課すかどうかを決定する見込みだ。その税率次第では中国製EVが欧州のEV市場に参入するハードルが一気に高くなる可能性もある。 ただ中国製EVへの関税に関しては、中国で事業を展開している欧州の自動車メーカーが、 「現地で安く作って輸入するビジネスモデル」 が成り立たなくなることや中国政府の報復に戦々恐々としているのはいうまでもない。専門家のなかには、 「中国との報復合戦リスクを考慮すると、中国製EVに関税をかけるのは慎重にならなければならない」 との意見もあり、どのような形で決着するのか気になるところだ。ジーカーやシャオペンといった新興勢力は、政治状況によっては欧州市場で予想以上に苦戦する可能性がゼロではない。
小田坂真理雄(国際トラフィックライター)