香港から失われたものは何か…区議会選挙の過去最低投票率が示すこと 「愛国者」の資格審査、民主派は立候補すらできず
香港で12月10日、区議会(18区の地方議会)選挙の投開票が行われ、中国政府寄りの親中派が議席を独占した。2019年の反政府デモを経て中国主導で香港国家安全維持法(国安法)が導入されて以降、香港では政治面や言論面での自由が急激になくなった。選挙にはしらけムードが漂い、投票率は過去最低の27・5%に沈んだ。立候補すらできなかった民主派の前区議会議員の話から区議会選を振り返ってみたい。(共同通信香港支局長 一井源太郎) 【写真】〝民主の女神〟周庭さん、香港には「恐らく一生戻らない」…決断に至る心境は
▽「愛国者」の資格 そもそも地方選挙の区議会選が注目されるのは、政府トップの行政長官を選挙で選べない香港では市民の投票機会は立法会(議会)と区議会の二つの選挙に限られているという事情がある。立法会は既に立候補には厳格な「愛国者」の資格審査があり、親中派がほぼ独占している。香港で「愛国者」とは、香港政治に関する最終的な決定権は中国にあるとの立場を容認し、中国当局に反対しない人のことを指す。民主的な選挙の実現を目指す民主派には受け入れられない条件だ。 2019年の前回の区議会選は、反政府デモの盛り上がりを受け民主派が議席の約8割を獲得した。しかし親中派が支配する立法会は中国当局の後押しを受けて、香港への忠誠の宣誓を義務付ける条例を成立させ、民主派議員の辞職や資格剥奪が相次いだ。 区議会が機能不全に陥ったことを理由に、香港政府は区議会が再び民主派勢力の基盤となることを阻止しようと、区議会選の制度変更に乗り出した。
香港政府が提出し、7月に立法会で成立した区議会選の制度変更は、親中派に圧倒的優位で、民主派政党を事実上、排除するものだった。新制度では、18区で計479あった議席を計470に削減し、このうち住民による直接投票枠は452から88に減らした。他に行政長官が選ぶ委任枠(179)と、地区委員会などの委員に限定された投票枠(176)ができたが、いずれも親中派しか立候補できない。区議会議長は議員からの選出ではなく、政府の役人が務める。 ▽不都合な人間を排除 直接投票枠への立候補には、「三会」と呼ばれる、地区、防火、防犯の三つの委員会から3人ずつ計9人の推薦を受ける必要があり、そのハードルを越えたとしても政府が設立した委員会による「愛国者」の資格審査を通らなければならない。 「政府にとって不都合な人間を排除するシステムだ」。香港の油尖旺区議会の現職議員で、民主派政党、民主党に所属する朱子洛氏(32)は立候補すらできず、閉鎖作業を進める自身の事務所で悔しさをにじませた。