「モディ一強」崩れるか 新興大国の行方に不透明感 総選挙で議席減、貧困層が野党支持・インド〔深層探訪〕
4日開票されたインド下院総選挙は、モディ首相率いるインド人民党(BJP)を中心とする与党連合が小選挙区543議席の過半数を確保したが、前回2019年総選挙から約60議席も大幅に減らした。BJPは240議席で、政権を奪回した14年の総選挙以来、初めて単独過半数を割り込んだ。モディ氏一強の体制が崩れる可能性があり、新興大国の行方に不透明感が漂っている。 【写真】インド・ニューデリーで記者会見する野党・国民会議派のラフル・ガンジー元総裁 ◇貧困層に不満か 圧勝の条件は一見、整っているように見えた。モディ政権下で経済規模は拡大。25年にも名目GDP(国内総生産)で4位日本を抜くとの予測もある。BJPは聖地にヒンズー教寺院を建立し、国民の約8割を占める支持層のヒンズー教徒にアピール。モディ氏は事前の世論調査で首相に望ましい人物として他の政治家を引き離していた。 しかし、その裏では農村部を中心に政権運営や生活の苦しさに対する不満が鬱積(うっせき)していたようだ。BJPは最多の州人口を抱える北部ウッタルプラデシュ州で、前回19年と比べ議席をほぼ半減させた。同州は農家や貧困層が多く暮らすことで知られる。 経済成長の中にあっても多くの国民は貧困や失業に苦しむ。貧富の差はモディ政権下の10年で拡大。上位1%が国の約4割の富を保有し、「英植民地時代より不平等になった」との研究もある。今回、少数の財閥企業を優遇する政権に失望した有権者が離反し、野党連合に票が流れた可能性もある。 デリー大のチャンドラチュル・シン准教授(政治学)は、野党連合は「政府の傲慢(ごうまん)さや雇用・インフレといった問題」に焦点を当てた戦略が奏功したと分析。ウッタルプラデシュのような貧しい州の若者が国よりも地元の問題を重視し投票したことも要因とみる。 野党連合の中軸を担う国民会議派のラフル・ガンジー元総裁は4日の記者会見で「貧困層や(旧被差別階層)ダリットの人々が投票してくれた」と強調。「インドは、モディ氏が政権を担うことを望んでいないと明確に示した」と述べた。会議派は議席をほぼ倍増させた。 ◇切り崩し狙う野党 一方、モディ氏は同日夜、首都ニューデリーのBJP本部で「与党連合(政権)の3期目は、インドの発展における新たな『黄金の章』を見ることになるだろう」と勝利演説した。同氏はかねて、独立100周年となる「47年までの先進国入り」実現のため政策継続の重要性を訴えてきた。 しかし、国民人気の高いモディ氏といえども次期3期目は政権維持のため連立相手に配慮せざるを得ず、同氏の描く政策が必ずしも実行できるとは限らない。また、野党連合はBJPと連立を組む党を切り崩して政権樹立を模索する構えを見せており、政局が混乱する可能性が出てきた。(ニューデリー時事)