ひろゆき、中野信子と脳を科学する⑩ 「脳トレ」するなら何がいい?「脳トレ」したらお金を稼げる?【この件について】
ひろ とはいえ、即興で対応できる能力が発達していれば「すごいな」とは思いますが、それがお金儲けに直結するかどうかはまた別の問題ですよね。 中野 はい。お金儲けに限っていえば、相手や場の雰囲気を即座に読み取って反応するような共感性が高いことが邪魔になるかもしれないという研究もあります。「ギバー(与える側)」と「テイカー(奪う側)」を比較すると、平均年収はテイカーのほうが70万円ほど高いという調査があります。つまり、嫌なヤツほど儲けている傾向があるんです。この点を考えると、日本の道徳教育はいま一度考え直す必要があるかもしれません(笑)。 ひろ あはは(笑)。みんながギバーで、自分だけがテイカーなら一番オイシイですもんね。結局、「みんなギバーであれ」という教育は、テイカーが得をする構造をつくり出しているわけだ。 中野 そういうことになるかもしれません。いい人でいると、お金儲けとのトレードオフが生じるのが悩ましいところですね。 ひろ つまり、共感したり空気を読んだりするスキルは、経済的な成功を目指す上では不利になる可能性があるわけですね。 中野 南オーストラリア大学の研究によると、企業のCEO(最高経営責任者)にはサイコパス(共感性が低い)傾向のある人が20%ほどいるそうです。一般人だと1%ほどなので20倍も多い。サイコパス度が高い人ほどお金が集まりやすいという一面が示唆されているんです。 ひろ となると「教育はなんのためにやるのか」って話になりますよね。いい職に就いて稼ぐのが目的なら、サイコパス傾向を高めるほうが有利ですよね。 中野 皮肉なことですよね。ただ、教育は〝使いやすい労働者〟を大量生産する機能も持っているんです。ある程度の読み書きや計算ができて、言われたことを素直にやる人材をそろえるほうが、国にとってはコスパがいい面もある。 ひろ 確かに。国や支配層にとっては、素直に働く人をそろえたほうがコントロールしやすいですからね。親として自分の子供をそう育てたいかは別問題ですけど。 中野 そうなんです。集団維持の観点から見ると、共感性が高く、言うことを聞く人間を大量に育てる教育は「コスパがいい」ということになる。 ひろ じゃあ、自分の子供を将来有利にしたいなら、「外面は従順なギバー」に見せかけつつ、「内面はサイコパス」みたいに育てるのがいいってことですか。 中野 そうですね。ただ、共感性が高いことが幸福度にどう影響するかも含めて価値観次第なんです。経済的な成功だけ狙うなら共感は足かせになるかもしれませんが、人間関係や地元の友達とのつながりからくる幸福も無視できません。 ひろ じゃあ、何が重要かを考えるために、まずは楽器の練習から始めるというのもありかもしれませんね。 中野 ヘタな脳トレグッズにお金を使うなら、楽器の練習のほうがよっぽど有益だと思います。 *** ■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など ■中野信子(Nobuko NAKANO) 1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など 構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾