相続人同士の「言った・言わない」のトラブルを防ぐ「遺産分割協議書」の提出先は?そもそも作成不要なケースも【弁護士が解説】
遺産分割協議書はどこに提出する?
遺産分割協議書は、相続人間で遺産分割協議を蒸し返さない(「言った・言わない」のトラブルを防ぐ)ための意味があるほか、さまざまな手続きに使用します。ここでは、遺産分割協議書の主な提出先を紹介します。 提出先1:遺産の名義変更や解約の手続き先 遺産分割協議書は、遺産の名義変更や解約などの手続きをする先に提出します。 たとえば、A銀行に被相続人の長男であるX氏が訪れ、「この銀行の預金は自分が相続することになったので、被相続人の預貯金をすべて自分宛に払い出してほしい」と主張したところで、証拠がなければ、この主張が真実かどうか判断のしようがないでしょう。 一方で、「A銀行の預金はすべて被相続人の長男であるXが相続する」との記載があり、相続人全員による署名と実印の押印がある遺産分割協議書があれば、長男の主張の裏付けが可能となります。 そのため、遺産の名義変更や解約をするにあたっては、原則として遺産分割協議書の提出が必要です。このような理由により、遺産分割協議書の提出が必要となる主な機関を4つ紹介します。 ・法務局 ・銀行 ・証券会社 ・運輸支局 ■法務局 遺産に不動産がある場合、被相続人名義となっている不動産を相続人名義へと変える「相続登記」が必要となります。この相続登記の申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。法務局に相続登記を申請する際は、遺産分割協議書のほか、登記申請書などさまざまな書類が必要となります。相続登記は相続手続きのなかでも難易度が高いため、自分で行うことが難しい場合は司法書士に手続きを依頼するとよいでしょう。 ■銀行 被相続人名義の預貯金口座を解約して預金を引き出すには、各銀行での相続手続きが必要です。銀行口座の解約手続きは銀行の支店で行うことが原則であるものの、近年その銀行の相続手続きを一手に取り扱う相続センターを設けており、郵送で手続きができる銀行もあります。銀行口座の相続手続きには、遺産分割協議書のほか銀行独自の「相続届」などさまざまな書類が必要となります。 ■証券会社 被相続人が証券会社に委託している有価証券を相続人の口座に移管する場合、各証券会社での相続手続きが必要です。各支店で手続きができるほか、郵送で手続きができる証券会社も増えています。証券会社の相続手続きには、遺産分割協議書のほか、証券会社独自の書類なども必要です。 ■運輸支局 被相続人名義の自動車を相続人の名義へと変えるためには、運輸支局での手続きが必要です。車の名義変更の手続きには、原則として遺産分割協議書の提出が必要であるものの、その車の査定額が100万円以下である場合は、車を相続する者の署名や押印だけをした簡易的な「遺産分割協議成立申立書」で手続きできます。なお、軽自動車の場合の手続き先は軽自動車協会であり、原則として遺産分割協議書の提出は必要ありません。 提出先2:税務署(相続税申告書の添付書類) 相続税とは、遺産などに対してかかる税金です。遺産や被相続人から受けた一定の生前贈与が相続税の基礎控除額を超える場合は、相続税申告をしなければなりません。個々の相続人が負担する相続税額は、遺産の分割内容によって異なります。 そのため、相続税申告には、原則として遺産分割協議書の写しを提出しなければなりません。なお、申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合は、期限までに申告と納税を行ったうえで、その後協議がまとまった時点で改めて申告をし直すこととなります。詳しくは、税理士などの専門家にご相談ください。