「学びを隠す社会人」そのワケは?◆大学院で見えた学び直しの壁、応援する企業も #令和に働く
◇学費援助、勤務日調整で支援
取材した社会人大学院生2人からは、仕事との調整や会社の無理解も学びのハードルとして挙がった。フリーマーケットアプリを運用する「メルカリ」は、そうした悩みを解消し、社員の学びを応援する「社会人博士支援制度」を運用している。「働きながら博士号を目指す人を後押しできないか」との社内の声がきっかけで、2022年2月から導入した。 学費援助や勤務日を調整する仕組みがあり、個人のペースに合わせて学業と仕事の両立が図れる。メルカリの事業発展に役立つのであれば、研究分野を問わない募集をしており、24年までに4人を支援した。制度を運用している研究開発組織「mercariR4D」の藤本翔一さんは「大学院に行っているメンバーがいることで、会社の同僚にも最新の知見が共有されることに手応えを感じている」と説明する。 エンジニアとして働くグレッグ・ウォンさん(38)は、ソフトウエアの検証とセキュリティーについて研究するため、23年4月に名古屋大大学院の博士課程に進学。出身の台湾で修士号を取り、博士課程進学に関心を持ち続けていたが、「働きながらでは難しい」と考えていた。そんな時、会社の支援制度が始まり応募したという。「会社が社員の博士号取得を応援する姿勢を見せてくれたことが後押しになった」と振り返る。 現在は業務時間外のほか、週に1日は業務をせずに研究に専念しているといい、「同僚も理解を示し、仕事の割り振りを調整してくれている。これまでに仕事に支障が出たことはない」と話す。仕事と研究のスイッチの切り替えは慣れるまで時間がかかったそうだが、「仕事でも研究でも自分のやりたいことを実現できている今に喜びを感じています」と笑顔で語った。 ◇学び直しのインセンティブとは? 大学院などで学び直した人材はどのような力を発揮するのだろうか。日本総合研究所主任研究員の安井洋輔氏は、人生100年時代で働く期間が長くなり、デジタル化も進む中、誰もが学び直していく必要があると指摘。人口減少で消費者が減るこれからは、企業は製品の品質向上よりも、新しい製品やサービスを生み出すことに軸足が移り、研究開発人材が求められるという。「大学院で学んだ人は新たなニーズを見つけて研究開発につなげるような多様なスキルを身に付けている。企業はそうした人材を活用しないと成長できない」と話す。 また、安井氏によると、人の社会的なつながりに関する海外の研究では、組織内部の結び付きで結束を生む「Bonding(絆型)」と、外向きで異なる組織や人を結び付ける「Bridging(橋渡し型)」の2種類があるという。イノベーションが起こりやすいのは、社外での交流が新たな気付きにつながるBridgingだが、「日本企業は社員に忠誠心を求めるBondingの傾向が強い。社外で学ぶより組織の中で頑張ることを良しとする姿勢が、学び直しを希望する社員への無理解につながっている」と説明する。 一方、「仕事の質を高めたい」「給料を上げたい」などの理由から学び直しの必要性を感じる社員は多いものの、インセンティブが見出せないことも壁となっている。年齢や勤続年数によって給料が決まる「年功賃金制度」や、異動に伴う業務内容の変更は日本企業では一般的だが、新しいスキルを身に付けても給料が上がらず、部署異動で生かせないこともある。安井氏は「経営者は学び直しを経営課題として捉え、人事制度を変革していくべきだ。例えば、職務内容を明確にして社員を雇用する『ジョブ型雇用』はスキルと給料が対応しているため、学び直した内容が直接仕事につながり、社員の納得感は高まるでしょう。社員も自らのスキルアップの道筋を立てやすくなる」と語った。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。