『ライオンの隠れ家』坂東龍汰の“止められない”芝居の凄さ 目線で表現する美路人の心
「あんたみたいな、楽して生きてる人にはわかんないだろうけどさ!」 10月11日に放送されたTBS系の金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』第1話で、市役所に勤めている小森洸人(柳楽優弥)は、イライラしている女性にこう言われる。確かに洸人は現在の“凪のような生活”を愛している。だが、その実態は“楽”でもなければ決して“凪”でもない。そのことを体を張って表現しているのが、洸人の弟で自閉スペクトラム症(ASD)の美路人を演じている坂東龍汰だ。 【写真】第1話でサプライズ出演となった尾野真千子 ASDの特性を持つ美路人は、自分がルール(ドラマの中では「ルーティーン」とも言われている)としたことや自分の興味があることに対しての行動が“止められない”ことを強く感じさせる。たとえば、「遅刻はいけない」と強く思っているらしい美路人は、務めているデザイン会社に兄が迎えにくる17時30分になったら、「17時31分40秒、17時31分41秒」と秒刻みでカウントを開始する。そして遅れてやってきた兄に「1分42秒の遅刻です」と事実を言うのを“止められない”。 また、美路人は色に対する知覚がとても鋭いが、その分、色を見てしまうと自分の知覚があっているか確認するのを“止められない”。ドラマではスーパーの外で見つけた自転車に対して「この色は114C……」と色の配合率を全て暗唱した後、確認する場面が描かれたが、こうなると確認が終わるまで美路人は「色と自分だけの世界」に入り込んでしまう。実際、美路人の耳には洸人の「みっくん、いくよ~」という声が届いていないし、ため息気味の洸人の様子にも気が付かない。この“止められなさ”を坂東は、すらすらと出てくる抑揚のない大量の言葉で表現している。彼にとって言葉は、頭の中に溢れる情報のアウトプットなのだ。 さらに、“ライオン”と名乗る少年(佐藤大空)が家にやってきた時は、地球外生命体がやってきたかのような怯えようを見せていた美路人。ルーティーンを決めることで日常生活を穏やかに過ごしている彼にとって、“いつもと違うこと”は頭の中を情報や処理しきれない感情でいっぱいにしてしまう。 第1話では、“ライオン”が自分が持っているのと同じ動物図鑑を持っていることに気がついた美路人が、咄嗟に「盗られた」と感じ、パニックに。さらに取りあって本が破れたことでパニックが加速し、壁に頭を打ち付け始めてしまった。美路人は兄の静止を振り切って顔を真っ赤にしながらも自分を痛め続けてしまう。坂東は自分で自分を“止められない”困難さを見事に表現しきっていた。 そして、美路人は自分が気を許した人としか目を合わさない。声をかけられれば顔は向けるが目線はいつもやや下に向けられている。コミュニケーションがうまく取れない、人との関わりが苦手といわれるASDの特性を表現しようとしている坂東の細やかな演技にも注目してほしい。 洸人は、暴走状態の美路人を見て、覆い被さるように押さえ込みながら、両親が亡くなった時のことを思い出していた。そこから、美路人がこのようになることは、今まで何度も経験してきたことなのだということが窺い知れる。洸人の言う“凪のような生活”は、閉店しても小森家のためにだけ店を開けてくれる定食屋「とら亭」の寅吉(でんでん)のような周りの人の協力や洸人の頑張りによって維持されてきたものなのだろう。 小さな“ライオン”の登場は美路人の心を掻き乱したが、一方で今までにない感情を芽生えさせた。“ライオン”が来るまで美路人は美路人の思うがままに生活すれば良かったが、これからはそうは行かないだろう。変化していく美路人を坂東がどのように演じていくのか、期待しながら展開を見守っていきたい。
久保田ひかる