チーム体制変更の大坂なおみは全仏、全英で勝てるのか?
「心理的に、自分はクレーはあまり得意ではないと思いこんでしまった。長いラリーだと自分は不利だとの思いもあった。それはグラスコートでも同じで、芝で滑ったり転んだりしている選手の姿を見て、怖いと感じてしまった」 そのようなメンタリティが、赤土や芝の上で自分の力に蓋をする障壁になっていると、本人も感じているというのだ。 ただ全仏オープンに関しては、かつて抱いたメンタルバリアは、相当に薄れてきているという。 その一つの契機が、2017年大会。この時の大会を制したエレナ・オスタペンコは大坂の同期であり、あらゆるボールを全力でヒットする強打自慢だ。そのボールの飛びゆく先は、ラインギリギリを捉えるウイナーか、凄まじい勢いでラインの外を抉るアウトかという、ギャンブル的なスリルに満ちている。 従来のクレー巧者のイメージとは全く異なるこの突貫娘の優勝は、大坂に「自分にもチャンスがある」と思わせてくれたのだと言った。 さらに、今の大坂が初めて赤土に立った18歳の頃と何より異なるのが、フィジカルの強さとフットワーク。 大坂本人が「とにかく走った。ウエイトもたくさんやった」と述懐し、指導にあたったトレーナーが「一度、フィジカルも精神面も壊すほどに追い込んだ」という程に激しいトレーニングを昨年末に積んだ成果として、今や彼女は、長い打ち合いでも「相手よりも走れる」と確信できるまでになった。 もちろん、ハードとクレーでは異なる種類のフットワークが求められるが、かつて長い打ち合いを恐れた彼女はもう居ない。 対して、芝のコートで鍵になるのは、ケガ対策だろう。クレーから芝への短い移行期間では多くの選手がケガに悩まされており、それは大坂も同様だ。昨年も前哨戦で腹筋を痛め、十分な練習を積めぬままウィンブルドンを迎えていた。準備期間と実戦経験の配分など、スケジュール面も含め考える要素は多いだろう。 また今後の展望として気になるのが、コーチのサーシャ・バインを2月上旬に解雇した影響だ。バインは単に大坂のコーチというだけでなく、ストレングス&コンディショニングやアスレティック・トレーナーなどのチームスタッフたちと旧知の仲で、“チーム・なおみ”のオーガナイザー的な役割も担っていた。日米を拠点とする大坂にとってヨーロッパはアウェーの地だ。クレーから芝へと移り変わるサーフェスのみならず、言語や文化面でもやや不都合を覚える2ヶ月の遠征を、いかにストレスなく乗り切るかも鍵になる。 ハードに比べればクレーや芝での大坂が、経験値的にもプレーの適応に関しても、まだ不足しているのは当然だ。だがそれは換言すれば、それほどまでに伸びしろがあるということでもある。 女王にして、なお驚くほどに未完成。それが、表情にあどけなさを残す21歳の、最大の魅力だ。 (文責・内田暁/スポーツライター)