パリ五輪の暑さ対策、富裕国のエアコン使用は五輪精神に反するのではないか
オリンピックはどのような理念を体現し、どのような価値観を説こうとしているのか。オリンピック憲章では、人類の発展にスポーツを役立てることを目的と定め、根本原則として、普遍性、連帯、持続可能性をうたっている。 しかし、残念ながら多くのスポーツがそうであるように五輪も商業化し、国家の卓越性を誇示する場と化してしまった(旧ソ連と東側諸国が代表チームに巨額の資金をつぎ込んだ事実を思い出してほしい)。五輪ボイコットがいい例だが、国際政治の思惑にも巻き込まれている。莫大な金が動くイベントなだけに、禁止薬物を使用してでもメダルを狙いにいく選手すらいる。 もしかしたら今こそ、本来あるべき「オリンピック精神」を取り戻すときなのかもしれない。2024年パリ五輪は、その重要な一歩を踏み出そうとしている。 パリのアンヌ・イダルゴ市長はカーボンニュートラルな五輪開催を目指している。ただ、これまでの夏季五輪では平均350万トンの二酸化炭素(CO2)を排出しており、野心的な目標といえる。 パリ大会組織委員会は、さまざまなアプローチで気候変動対策に取り組んでいる。まず「競技会場の95%は既存・仮設の施設を活用し、新規に建設するのは大会終了後も利用できる施設のみ」とすることで、CO2排出量を抑える。新たなスタジアム建設には大量のセメントと鉄鋼が必要で、どちらもエネルギー消費が非常に大きい。既存インフラの再利用は、五輪開催による気候への影響を軽減できる良い工夫だ。 各国選手団や観客が航空機で移動することによる気候変動への影響も課題となる。欧州外から参加する場合は空の便を利用せざるを得ないが、欧州の選手団がどの程度、列車やバスで現地入りするかは興味深い。いずれにせよ、組織委は避けられない排出量についてはカーボンオフセットを購入すると約束している。
物議を醸す床下冷房とエアコン使用
■気候目標達成への貢献、参加者にできることは? 大半の参加国は気候問題の深刻さを認識し、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ目標」を設定している。パリ五輪が気候変動への配慮を掲げている点を考えれば、おそらく各国選手団は少なくとも排出を回避できる活動については、温暖化対策に足並みをそろえるべきだろう。 航空機移動がまず最大の排出要因となろうが、物議を醸しているのはエアコンの使用である。 世界各地と同じくパリの夏は近年、暑さを増している。屋外会場の温度管理は難しいが、大会組織委は選手村の快適さを維持することに腐心している。かなりのストレスにさらされるであろうアスリートたちがしっかり休息をとり、睡眠不足で競技に影響が出ることのないようにしなければならない。 環境への配慮の一環として、大会組織委はエアコンを設置しないと決めた。代わりに床下に送水管を張り巡らせ、冷水を流すことで室温を下げる冷却設備を導入している。 ■使うべきか使わぬべきか、それは五輪規模の問題だ だが、このフランスの冷却設備に、一部参加国は感銘を受けなかった。米国、カナダ、英国、イタリア、ドイツ、ギリシャ、デンマーク、オーストラリアなどの五輪委員会は、ポータブルエアコンを持ち込むと決定した。 米オリンピック・パラリンピック委員会のサラ・ハーシュランド最高経営責任者(CEO)は、次のように説明した。「ご想像いただけるだろうが、今はチームUSAのパフォーマンスにとって一貫性と予測可能性が肝心な時期だ。選手との会話でも、暑さ対策は非常に優先順位が高い。競技で好成績を収めるためにも、慣れ親しんだ対策に対する予測可能性と一貫性においても、重要な要素だと選手たちは感じている。よって、エアコンを導入する」 これは2つの理由から問題のある選択だ。