JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える(25)=ブラジルの日本語教師の姿=ブラジル日本語センター=芦田園美
南米最大の経済都市といわれているサンパウロに来て、いちばん驚いたのは坂の多さとその急斜面です。市内を車で移動していると、日本の都市ではありえない傾斜の上り坂、スキー場の上にあるような下り坂が突如現れるので度肝を抜かれます。怯む私を尻目に、急坂に向かって進むドライバーは勇者のようです。ちなみに勇者たちが運転する車はマニュアルで、急坂での停車、発進も難なくこなします。 私が住むアパートメントも坂に面しています。私は毎朝、坂を上って徒歩1分の配属先、ブラジル日本語センター(CBLJ)へ通っています。 CBLJはブラジルの日本語教育の中心となる機関で、日本語教育および日本文化の普及を通してブラジルの発展に寄与することを目的に1985年にブラジル日本文化福祉協会、日伯文化連盟、伯国日本語学校連合会によって設立されました。来年2025年に40周年を迎えます。 CBLJでは教師支援、学習者支援、日本学校支援の3本柱を軸に、教師養成講座や研修会をはじめ、学習者向けのテスト、作品コンクール、日本語スピーチコンテスト、ふれあいセミナー、日本語まつりなどを実施しています。年間で11もの研修やイベントを10名のCBLJスタッフと日本語教師やボランティアの方々の協力で運営しています。 ご存じの通りブラジルでは、アニメ・漫画・JPOPなど日本文化が受け入れられ多くのファンを獲得しています。しかし、国際交流基金の調査によると2018年に約2万6千人いた日本語学習者がコロナ禍を経て2021年には約2万人に、日本語を教える機関も381から261に減ってしまいました。 私はCBLJでマーケティング担当として日本語学習者を増やすためのPR支援やアドバイスを行っています。そのために日本語教師の研修会へ参加し、ヒアリングを行っているのですが、先生方の熱意とバイタリティには驚かされます。 日本では考えられないことですが、ブラジルでは多くの地区で生徒数を増やすために先生自らが戦略を模索し、募集イベントを企画、実施してSNSなどで募集PRをしています。 ブラジルでは学習者の約58%が学校教育以外の機関で日本語を学んでいることも知りました。(世界の統計では約84%の学習者が学校などの教育機関で日本語を学び、約16%が学校以外の教育機関で学んでいます) 授業も、レベルの異なる学習者が同じ教室で学ぶ複式授業が多く、先生は生徒のレベルに合わせて教材を手作りしていると聞きます。 このように授業だけでも手一杯なはずの先生が、生徒募集に対しても積極的にいろいろなアイディアを出してくださいます。他にも学習者のモチベーション維持や先生の待遇の問題など日本語教師をとりまく課題は多いのですが、私が知っている先生方は、皆おおらかで笑顔が印象的です。 そして、いつも生徒や人のことばかり考えていて、自分のことはいちばん最後です。生徒の成長や変化を誰よりも喜び、自分がその成長を促しているという自覚もなく生徒に向き合っています。 その姿をみていたら、私の小学校の時の恩師を思い出しました。恩師はいつも生徒ひとりひとりに寄り添ってくれました。ふと、ブラジルの日本語教育というのは日本語を教えることだけではなく、日本の文化や習慣を通して生徒の心を培うためのもので、先生は心の成長を見届けたいだけなのではないかと思いました。 生徒の心の成長は周りの人々を幸せにします。私は、そんな尊敬する先生方や、ブラジル各地にいる熱意ある先生方のために出来ることをしたいと思います。
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