『相棒』寺脇康文×鈴木砂羽“亀山夫妻”らしい愛の形にほっこり モト冬樹の熱演が光る
「間違った道だとしても 私の気持ちは変わりません どうかお元気で」 これはある画家のキャンバスに残されていた一文である。『相棒 season22』(テレビ朝日系)第13話のタイトルは「恋文」。別れのメッセージのように思えるこの文も見方を変えれば恋文になるのだという。 【写真】『相棒』宿敵の南井の存在を感じ取り驚きの表情を見せる水谷豊 亀山(寺脇康文)の妻である美和子(鈴木砂羽)は匿名で5通もの“ラブレター”を受け取ったと色めき立って、右京(水谷豊)に差出人の割り出しを依頼する。最近の美和子の様子を見ていた亀山は、不機嫌モードでひとり出歩いていた。そんな中、亀山は伊丹(川原和久)と偶然、路地裏で遭遇し、喉を切られて死んでいる男性を発見。その手には、「亀山美和子様」と書かれた封筒が握られていた。被害者は、美和子が行きつけにしているカフェの店員で、封筒の中身は持ち去られていた。 捜査に乗り出した右京は、被害者が戸倉充(モト冬樹)という画家の絵画展のチケットを所持していたことに着目。戸倉は12年前に失踪した妻の捜索を求め、地元警察署の前で座り込みを続けているいわく付きの人物だった。所轄の刑事によると、戸倉の妻は失踪直前、「男に付きまとわれていた」との目撃証言があり、戸倉のパトロンが容疑者として浮上したものの、問題の男は暴力団同士の抗争に巻き込まれて死亡したという。いきさつを知った右京と亀山は、戸倉のもとを訪れ、直接事情を訊ねる。 匿名の“ラブレター”を「トリオ・ザ・捜一」の紅一点・出雲(篠原ゆき子)に読み上げられたり、その“ラブレター”以外にも美和子宛の手紙が出てきたことをいじられたりして亀山は終始タジタジ。調べてみると、殺されたカフェ店員は戸倉と知り合いで、どうやら座り込み以外に行動を起こさない戸倉に我慢ができず、未解決事件の記事を書いていた美和子に取材をお願いしようとしていたようだ。ひとまず、美和子は事件と関係ないようで一安心である。 今回の事件の犯人には、「戸倉の妻の失踪事件を蒸し返されたくない」という動機とも思える、強い意思があるようだ。そうなると、妻の失踪には戸倉が直接関わっているのではと疑うのは当然のことである。右京たちが戸倉にそれを問うと彼は「全然何もわかってない」と声を荒げた。戸倉によれば妻が出て行ったのは、戸倉が暴力を奮っていたからでも、別に男ができたからでもない。実は、彼女は自殺したがっていたのだという。戸倉はそれを知りつつ、「遺体が出なければ真実ではない」と見て見ぬふりをしてきたのだ。最近、余命がいくばくもないことを知らされた戸倉は、死ぬまで妻を探す男でいたかったのだろう。妻の選択にも戸倉の選択にも悪意はないけれど少しずつ少しずつ間違いがあった。「そっとしておいてくれればよかったのに」と戸倉はポツリとつぶやいたが、歪んでしまったものを「そっとできなかった」カフェ店員が犠牲になってしまったのは、身勝手としか言いようがない。 冒頭のメッセージは戸倉が妻の姿を描いたキャンバスの下に残されていたのだが、つまりは「命は断ってしまったけれども それでもあなたへの愛は変わりません どうかお元気で」という“ラブレター”だったのだ。右京からのメッセージの真の意味を知らされて、泣き崩れる戸倉の姿に胸が痛んでしまった。少しでも道が違えば、今でも幸せに2人で食卓を囲めていたかもしれないのだ。そう思うと、やるせない気持ちになる。 さて、残る謎は、美和子に送られてきていた匿名の“ラブレター”。なんと送っていたのは夫の亀山本人だった。どうやらサプライズのつもりだったらしいのだが、浮かれている美和子の姿に、嫉妬を覚えてしまったらしい。自分でも自分の感情がよく分からなくなって混乱し、言うに言えなかった亀山の様子はなんだかかわいらしかった。もっと驚いたのは、それを美和子が見抜いていたこと。なんでも、夫が真相を語るのを楽しみにからかいながら待っていたのだとか。なんとも“亀山夫妻”らしい事の終わりに、どうぞ末長くお幸せにと思わずにはいられなかった。 たくさんの恋文が出てきた今回。特命係の部屋に1人残っていた右京は、静かに手紙をしたためていた。右京が心を許した人といえばあの女性である。誰宛なのかが気になったならば、ぜひ放送で確認してほしい。
久保田ひかる