錦織圭 全米オープンベスト4戦の勝機は?
ウィンブルドン優勝のあと長年の恋人と結婚式を挙げ、年内に子供も生まれるジョコビッチはプライベートも充実し、幸せすぎたせいか、前哨戦ではなかなか調子が上がってこなかったが、グランドスラムにきっちり照準を合わせてくるのはさすが。ここまでのプレーを見る限り、不安要素は何もない。フォア・バックともに強力で隙がない。鉄壁のディフェンスを誇り、1ポイントから試合を完全にひっくり返す勝負強さも持ち合わせている。ただ、ジョコビッチもやはり他のトップ選手と同意見で錦織のスピードを警戒し、記者会見では錦織のフィジカルの向上にも言及した。 「これまで彼はいいところまでいったと思ったらケガ…ということが多かった。ケガにキャリアを邪魔されてきたと思う。でも今回、真夜中に5セットを戦って、すぐにまた5セットを勝ちきったのは大したもの。今も見たところ体調は良さそうだ」 1回戦から数えて準決勝は6試合目。グランドスラム1大会で5試合を戦うということは錦織にとって未知の領域だ。ジョコビッチはああ言ったが、見た目は大丈夫でも疲れがないわけはないだろう。準決勝という舞台は緊張もするだろう。雰囲気に呑まれはしないか、平常心を保てるか……。 一方で、こうも考えられる。もしかしたら錦織には、ジョコビッチやフェデラーやナダルのように選ばれたプレーヤーたちと同じく、この領域でもう一段ギアを上げる力があるのかもしれないのだ。誰も、本人すら、きっとまだわからない。そう、未経験はハンデなどではなく、未経験の中にこそ錦織の可能性が潜んでいる。右足親指の手術による準備不足で、大会直前になってもなお出場を悩んでいたのがちょうど2週間前。ここまでの錦織圭のミラクルを目の当たりにし、〈不可能〉の文字はもう消え失せた。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)