【漫画】工事現場監督の過酷な日常と奮闘を描いたリアルお仕事漫画に「うちの会社もあてはまる」「本当はやりがいのある仕事なのに」の声
コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、「週刊漫画TIMES」にて連載中の、解体業者として地道に働く元爆破解体技師のゲンが、かつての華やかな舞台に戻るよう奮闘する姿を描いた『解体屋ゲン』(こわしやゲン)をピックアップ。『解体屋ゲン』は、原作担当の星野茂樹さん、漫画担当の石井さだよしさんによる漫画作品。 【漫画】現場監督の一日に押し寄せる業務と責任感「ここのマンガで救われた人すっごく多いと思うな」の声 原作担当の星野茂樹さんが2023年7月16日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、1万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。 この記事では、星野茂樹さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。 ■過酷な現場監督の日々に潜むリスクとは 日下(くさか)は現場監督としての過酷な日々を送っている。昨日もビジネスホテルに泊まり、早朝5時に目を覚ました。午後には雨の予報があり、急いで雨天時の段取りを考えながら、材料の発注や会議資料の作成にも追われる。 工事にミスが発生した場合、午後の予定を変更して修正工事に取り組む必要がある。現場代理人であるゲンも、日下の忙しさを見かねて手伝うが、それでも業務量は膨大だ。 日下は多くの仕事に押しつぶされそうになりながらも、自分の責任感から逃げ出すことができずにいる。そしてゲンもまた、新人がすぐに現場監督を担当することに疑問を抱き、現場経験を積ませてからのほうが効率が上がるのではないかと考えていた。 ゲンは最悪の結果を避けるために、現場監督が抱える三つの問題に対して改善策を模索し始めるーー。 物語を読んだ人たちからは「いろんな思い出が蘇りました…結局身体も精神もぶっ壊れて監督は辞めました」「本当はやりがいのある仕事なのに。」「ここのマンガで救われた人すっごく多いと思うなー」「俺はサブコンだけど似たようなもん」「うちの会社もあてはまるなー」「スーパーゼネコンの知人がいましたが、漫画のまんまでの環境の現場でした」など、反響の声が寄せられている。 ■現実とリンクする作品テーマの進化 ――創作のきっかけや、着想を得たエピソードを教えてください。 前作が打ち切られた後、後がない崖っぷちの状態で4回限定の掲載枠をもらいました。「どうせなら華々しく全部爆破して終わりにしてやろう!」という気持ちで、爆破解体をテーマにした話にしました。 当初は全て読み切りで、4回爆破解体を行う予定でしたが、今確認すると、4回目は爆破テロを防ぐ話でした。記憶は適当なものですね(笑)。 ――キャラクターはどのように生み出されたのか教えてください。 私が書くのは企画書とシナリオなので、キャラクター設定は本当にざっくりしたものです。確か「身長180cmの筋肉質」というくらいで、あとは漫画家の石井さんがキャラクターを作ってくれました。 他のキャラクターも全て石井さんのデザインです。年齢や体型、仕事、性格くらいを書いて石井さんに渡し、後はどんなキャラクターが出てくるのか毎回楽しみにしています。 初めての雑誌掲載時は夏に掲載予定だったためタンクトップ姿でしたが、何かの理由で(私も石井さんも不明ですが)掲載時期が半年伸びました。 既に第1話の絵が完成していたため描き直すこともできず、苦肉の策として「一年中タンクトップ姿で首に手ぬぐいを掛けた主人公」ゲンが生まれました。 それを逆手に取って、第3話ではタンクトップ姿で冬山のスキー場で仕事をする話を作りました(第3話「ぶっきらぼう」)。結果的にそれがトレードマークとなり、皆さんに覚えていただけたので、人生って分からないものですね。 ――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。 少し長いですが、992話「ここからはじまる」から引用します。この場面は、ゲンたちが都市部での爆破解体を実現するために都議会を通す必要があり、時代を切り拓くには新しい挑戦が必要だとゲンが主張するシーンです。 ちょうどこのインタビューを受けている最中に衆議院議員総選挙が行われ、自公の過半数割れが決定しました。 建設業に携わる多くの方は、2009~2012年の民主党政権時代の悪夢を思い出したのではないでしょうか。当時、事業仕分けの名のもとで大型公共事業が大幅に削減され、多くの建設会社が仕事を失い、企業倒産が増加しました。この先、緊縮財政により再び公共事業の発注が減少するのか、消費税は上がるのか、景気は低迷するのか…。 もちろん立憲民主党も同じ轍を踏みたくないでしょうから、あらゆる手立てを講じてくると思います。 この先の建設業には不安が立ち込めていますが、この時代に立ち会うことも何かの運命かもしれません。ゲンたちのように新しいことに挑戦する人間が活躍できる世の中になってほしいと願っています。 ――一から世界観を創り上げ物語を展開していくうえでこだわっている点や特に意識している点を教えてください。 連載を続けるうちに、テーマや扱う題材は少しずつ変わっていきます。最初は「爆破解体エンターテイメント」というキャッチコピーで、日々の鬱憤を週末にスカッと晴らしてもらう(掲載誌『週刊漫画TIMES』は金曜日発売)、読んだら元気になるけれど、翌日には忘れてもらって構わないというスタンスでした。 しかし、主人公ゲンが結婚し、仲間が増え子どもが生まれると、そうもいかなくなります。責任が生まれ、警察に捕まるような無茶もできず、社員の給料を稼ぐために奮闘しなくてはならなくなりました。漫画なので制約を無視して格好いい世界だけを描いても良いのですが、不器用な私には現実と作品世界を切り離すことができませんでした。 一番こだわっているのは、現実の制約に縛られながらも、漫画としての面白さを損なわないことです。 ――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。 気づけば連載21年目!いつも応援ありがとうございます。『解体屋ゲン』は、世界情勢やテクノロジーの進歩、社会問題をタイムリーに反映させる作品ですが、今後どうなるのかは作者自身も分かりません。残念ながら、連載開始以来、ゲンたちが大金持ちになることはありませんでした。今後はより厳しい世界が待ち受けているかもしれません。 それでも仲間たちと力を合わせ、難局を乗り越えてきた彼らが、この先もきっと頑張ってくれると期待しています。 最後に、今回の衆院選の投票率は53.85%で戦後3番目の低さでした。投票率が低いということは、組織票を持つ政党が有利になるということであり、個人の意見や若者の意志が反映されにくくなるということです。 日本の未来を真剣に考えるなら、どの政党を支持するにせよ、まずは投票という形で自分の意志を示すことが大切です。あれ?漫画の話でしたね(笑)。そう、これはまさに漫画の話です。 漫画家の待遇、読者の皆さんの懐具合、つまり経済を良くするためには政治の力が必要で、その政治家を支えるのは皆さんの一票です。漫画と政治は直結している、そう言いたかったのです。