年商約7億の墓石店社長が大ヒット作曲家と奏でる癒やし 死と隣り合わせの仕事だから感じる笑顔の大切さ
兵庫県内を中心に精力的に活動する超異例デュオ「T&T」。メインボーカルを務めるのは、加古川市で石材店「お墓の山石」などを経営する「有限会社山石」の山本俊之社長(61)だ。サポートするのが、タレント南明奈の代表曲「I believe~夢を叶える魔法の言葉~」を作曲したTOJI(50)。年商7億近い関西屈指の“お墓屋さん”の社長がオリコン1位ソングの作曲家と組んで、歌手活動を続けているわけとは?その思いを聞いた。 【写真】「お墓の山石」の山本俊之社長 創業30年。今でこそ関西の石材店でも屈指の収益を上げているが、開業から10年は年商1億にも満たず、前途洋々とはとても言いがたかった。10数年前、山本社長は営業方針を大きく転換。「街のお墓屋さんの名前なんて誰も言えない。でも、いざと言うときに会社の名前が頭に浮かんでくれたら」と積極的に地元メディアへ出演するようになった。 その一環でCMソング用の社歌を作ることになり、作曲家として紹介されたのがTOJIだった。島田紳助氏に抜擢されてテレビ番組「クイズ!ヘキサゴン」に関わったTOJIは「南明奈のスーパーマイルドセブン」のナンバーを作曲し、オリコン1位に輝いたことも。TOJIの曲を気に入った山本社長はCMソングだけではなく、CD制作など活動を全面的にサポートした。 しかし、、自主制作CDをそう簡単には売れない。「だから加古川駅前で路上ライブすることを勧めたんです。でも、全然止まってくれへん。冬やったしね。これは困ったなあと思って、とりあえずぼくがサクラで応援しようと思ったんです」 とはいえ、ただ立って応援しているだけでは目を引くことはない。そこで社長はとんでもない行動に出た。「冬なので、彼が歌ってる前でコタツを置いたんです。で、みかん剥きながらステテコ着て、兄ちゃん頑張れ!って応援したんです。意味わかんないでしょ?でも、人が集まり出した。一緒にコタツに入る人も出てきて、それから続々と集まり始めたんです」 いつの間にか加古川のちょっとしたムーブメントになったが、そうなると警察が出動する事態になり、コタツの撤去を余儀なくされた。また日を置いて路上ライブ。すると警察が出動。そんなことが何度か繰り返された。 ある日の路上ライブで、1人の男性がCDを買いにきた。男性は「いつも止めに来てる巡査なんですけど、きょうは非番なんで応援に来させていただきました」と言われた。社長がびっくりして恐縮していると、男性は「私ら通報が入ると、どうしても注意をしにいかんとダメなんです」と申し訳なさそうに語った。 「それを聞いて、ぼくら、まじめに働いている人たちに迷惑をかけてるんや、本末転倒や、と思いました。それからコタツを置いてのライブはやめました」 ただ、この体験で歌の影響力を改めて感じた。ならば、と自身もパフォーマーになることを決意した。これまでも「少しでも会社の名前を覚えてもらえるように」とメディアに出演していたが、イベントなどにも積極的に出演し、ユニットを組んでパフォーマンスをするようになった。 芸能活動を積極的に展開したのは大きな理由があった。「うちのお客さんは100%誰か家族が亡くなってる。だから暗いんです。僕らの前では楽しく振る舞ったらあかんと思ってるんです。でも、亡くなった人も絶対に歌が好きやったはず。家族には暗い顔より楽しい顔して過ごしてほしいはず。そんなことは漠然と思っていたのですが、芸能活動をすることでより一層その思いが強くなりましたね」 その思いをさらに後押ししてくれたのは、8年前に52歳の若さで亡くなった晴美夫人だった。 15年7月末、晴美さんの体にがんが見つかった。ケアのため、社長はしばらく芸能活動をあきらめると晴美さんに伝えた。しかし、意外な言葉が返ってきた。「その活動で周りの人が楽しんでくれるのなら、きっと私たちにも良いことがあるはず」。むしろ、もっと頑張って活動を続けるように諭された。 22年に結成した「T&T」のデビュー曲は「生きる」。晴美さんとの日常を淡々と描いたバラードだ。 「大切な人が亡くなっても、残ったものは生きていかんとあかん。きょうも明日も明後日も生きていかなあかん。そう思って書いた曲です。それで、みんな元気になったらええんかなと思ってます」 人の死といつも隣り合わせにいるからこそわかる笑顔の大切さ。“街のお墓屋さん”のおじさんは、きょうも笑って人々を元気づけている。(江良 真) ◇T&T TOSHI君とTOJI君のデュオ。2022年8月、バラード「生きる」を制作し活動スタート。仕事でもつながりの深い職人たちに敬意を表しガテン系ファッションで歌う。コント風のステージで笑いの絶えないパフォーマンスが得意。神戸のグループ「KOBerrieS♪」などアイドルユニットとの共演も多いが、年齢層の違いを超えて笑いを誘う。今年1月、初のミニアルバム「感謝」発売。尊敬する歌手は松山千春。