【週末映画コラム】先達の思いを引き継いだ2本 思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇『アイミタガイ』/仲野太賀が随一の活躍を見せる集団抗争時代劇『十一人の賊軍』
【週末映画コラム】先達の思いを引き継いだ2本 思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇『アイミタガイ』/仲野太賀が随一の活躍を見せる集団抗争時代劇『十一人の賊軍』 1/2
『アイミタガイ』(11月1日公開) ウエディングプランナーとして働く梓(黒木華)は、親友の叶海(藤間爽子)が事故で亡くなったことを知る。恋人の澄人(中村蒼)との結婚に踏み切れない梓は、叶海と交わしていたスマホのトーク画面にメッセージを送り続ける。 同じ頃、叶海の両親の優作(田口トモロヲ)と朋子(西田尚美)のもとに、見知らぬ児童養護施設から娘宛のカードが届く。そして叶海の遺品のスマホには、たまっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知が入る。 一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母(安藤玉恵)の紹介でピアノの演奏を依頼しに行ったこみち(草笛光子)の家で、中学時代の叶海との思い出がよみがえる。 親友を失った女性を中心に思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇。中條ていの同名連作短編集を基に、市井昌秀が脚本の骨組みを作り、故佐々部清監督が温めていた企画を草野翔吾監督が引き継いで完成させた。人から人へとバトンタッチされながら出来上がった映画。そのことがすでにこの映画のテーマを象徴しているといってもいい。 「アイミタガイ」とは「相身互い」と書き、同じ境遇にある者同士が同情し助け合うことを意味するが、この映画のキャッチコピーでは「気付かぬうちに人は触れ合い、思いは優しく巡っている」と表現されている。 そして、全てのことは偶然ではなく必然であり、人と人との縁やつながりを深く感じさせる心温まる物語が展開していくのだが、正直なところ悪人が全く登場しないことに気恥ずかしさを覚えるところもある。 ところが、劇中に「善人ばかりが出てくる小説は信用できないと思っていたが、それを信じたくなる」というせりふが出てくる。つまり、そうした疑問を逆手に取ってちゃんと主張している。まさにそのせりふこそがこの映画の了見なのだ。 また、ラストシークエンスのつじつま合わせが見事だ。映画ならではのカメラワークを駆使して同じ場面を異なった視点で見せる。すると登場人物たちの絡まり方が変化し、点と点が線になってやがて円になる。途中まで別々に進んでいた話が最後に全て結びつく快感が得られるのだ。草野監督もここに一番力を入れたと語っていた。 加えて、「遠き山に日は落ちて(家路)」「ラブ・ミー・テンダー」といった挿入曲の選曲も素晴らしい。特にエンディングロールに流れる「夜明けのマイウェイ」(歌・黒木華)は、もともとは荒木一郎作詞・作曲の「ちょっとマイウェイ」(79~80)というテレビドラマの主題歌だが、歌詞がこの映画の内容とぴったり合う。よくぞこの曲を使ったものだと感心させられた。