出稼ぎ中に妻が他の男との子供を妊娠し…それでも夫が大喜びする「衝撃の理由」
私たちの「常識」は覆される
彼らの生殖理論はまた、母系社会の論理に密接に関わっています。そこでは家族の成員は母系の系統だけであり、父親は家族の成員ではありません。父親の代わりに子に対して法的な権利を持つのは、母のキョウダイ、すなわち母方のオジなのです。そうした社会的な現実に対応するかたちで、トロブリアンド諸島では、父親が提供した精液が受胎になんら価値を持たないのだと考えられていたのです。 驚くべきことかもしれませんが、こうした異文化の現実を知ると、日本人である私たちの考えだけが正しいのではないことが分かります。私たちが普段、常識だと思っていることだけが、常識ではないのです。自分たちとはまったく違うルールの中で生きている人たちの生き方、あり方を知る。それこそが人類学の醍醐味です。 マリノフスキはライセタという友人などを取り上げて、トロブリアンド諸島の人たちの性愛生活にまで踏み込んで記述し、それを親族関係や人々の暮らしとの関係の中に描き出しています。こうしたマリノフスキの課題探究には、『マリノフスキ日記』の中で綴られた彼自身の性愛生活に対する関心が色濃く反映されているのです。 さらに連載記事〈日本中の職場に溢れる「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた…人類学者だけが知っている「経済の本質」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野克巳