1月の実質賃金下落幅は縮小も上昇まではなお遠い:日銀のマイナス金利政策解除の時期決定に大きな影響はない
実質賃金上昇率の下落率大幅縮小は一時的
厚生労働省が7日に発表した1月分毎月勤労統計で、実質賃金は前年同月比-0.6%と、22か月連続で下落となったものの、下落幅は12月の同-2.1%から大きく縮小した。しかしこれをもって、実質賃金がプラスに転じる時期が近付いたと考えるのは誤りだ。 1月の実質賃金上昇率の下落幅が大きく縮小したのは、主に2つの要因による。第1は、振れの大きいボーナスなど一時金の「特別に支払われた給与」が、前年同月比+16.9%と大きく上振れたことだ。しかし、より安定した動きをする基調部分の所定内賃金は、前年同月比+1.4%と前月と同水準だ。賃金の基調的な動きには変化は見られない。 第2は、実質賃金を算出するのに用いられる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が、前年同月比+2.5%と前月の+3.0%から下振れたことだ。これは宿泊料の下振れなどによる一方、前年の政府の物価抑制策の反動から、2月分では同指数は、再び+3%を上回ることが見込まれる。 所定内賃金上昇率のトレンドが前年比+1.5%程度、物価上昇率(持ち家の帰属家賃を除く総合)のトレンドが前年比+3.0%程度であるとすると、実質賃金上昇率のトレンドはなお前年比-1.5%程度となる。安定的にプラスになるにはまだ時間を要す。
物価上昇率の低下が賃金上昇率の低下をもたらす
今年の春闘で賃金上昇率が上振れるとしても、所定内賃金上昇率は最大で前年比+2.0%程度までの上振れにとどまるのではないか。年末にかけては物価上昇率が前年比+2.0%程度まで低下し、一時的に所定内賃金上昇率に接近することが見込まれるものの、物価上昇率が来年の春闘での賃金上昇率を顕著に下振れさせることから、再び両者の差は拡大し、実質賃金上昇率が安定的にプラスになるのは、2025年の後半になると予想する。 そもそも春闘だけで賃金上昇率のトレンドは決まる訳ではなく、現金給与総額や所定内賃金上昇率の動きを見ると、昨年の春に上昇率は頭打ちになったように見える(図表)。これは物価上昇率の低下の影響と考えられる。 賃金の動向に最も大きく影響するのは、日本では物価動向だ。物価上昇率が既に下落トレンドに転じる中、賃金上昇率もピーク圏に近いと見る。今後は、双方とも上昇率を低下させる方向であり、両者が相乗的に高まっていく、賃金・物価のスパイラル的な上昇は簡単に生じるものではない。