田中碧はドイツ2部に留まる選手なのか。25歳で迎える分岐点。日本代表で「パフォーマンスを出せる環境」【コラム】
日本代表は2024年1月1日、TOYO TIRES CUP 2024でタイ代表と対戦する。遠藤航や守田英正が不在のタイ代表戦では、田中碧のかじ取りがチームの出来を左右することになるだろう。ドイツ2部でプレーする25歳の田中にとって、元日から始まる2024年は、田中のキャリアに大きな影響を与える1年になるかもしれない。(取材・文:元川悦子) 【画像】サッカー日本代表、タイ代表戦予想フォーメーションはこちら
●サッカー日本代表で増す田中碧の重要性 2024年日本サッカー界の門出を飾るタイ代表戦が元日14時から国立競技場で行われる。 「タイ戦では経験の浅い選手たちを試すことにチャレンジしたい。そこで選手層の幅を広げ、より大きなグループで勝っていける力をつけられるようにやっていきたい。誰が出ても日本代表の力が変わらないことをお見せできればなと思います」 森保一監督が前日会見で語った通り、今回はフレッシュな面々がズラリと並ぶことになる。スタメンはGK前川黛也、DF(右から)毎熊晟矢、藤井陽也、町田浩樹、森下龍矢、ボランチには佐野海舟と田中碧、2列目右に伊東純也、同左に奥抜侃志、トップ下・伊藤涼太郎、FW細谷真大という顔ぶれが想定される。 このメンバーとなれば、2022年のFIFAワールドカップカタール経験者は伊東純也と田中碧だけ。特に中盤でチーム全体をリードする田中碧の役割は非常に大きくなるはずだ。 すでに9月のトルコ代表戦でキャプテンマークを託されているほど、指揮官からは重要な存在だと位置づけられているが、ボランチとしては遠藤航、守田英正の鉄板コンビに続く第3の選手という位置づけが長く続いている。AFCアジアカップ2023とFIFAワールドカップ26アジア2次予選、そして最終予選のある2024年は現状を打破し、一皮むける必要がある。そのことを本人が誰よりも強く自覚しているはずだ。 ●サッカー日本代表の出来を左右する田中碧のかじ取り タイ戦で田中碧がまずやるべきなのは、ボランチで並ぶであろう佐野、トップ下の伊藤涼太郎との良好な関係性を構築すること。ボール奪取力や対人守備に秀でる佐野がやや後方に位置し、田中碧がやや前目で伊藤涼太郎と絡みながら攻めを構築するようなバランスになると見られるが、彼の舵取り1つで中盤が機能するか否かが決まると言っても過言ではない。 これまでは年長の遠藤らにやりやすい環境を用意してもらっていた田中碧だが、今回は自分が遠藤らの果たしている役割を担わなければいけない。より高度な戦術眼と統率力を発揮し、チームをスムーズに動かすことが肝要なのだ。 「若い選手も多いし、チームのことを考えてやることとか、声を出すのも大事ですけど、自分のプレーを出すことが一番。重く考えすぎる必要はないのかなと思います。1人1人が持っているものを出して、試合を優位に進めることがいいパフォーマンスを出せる環境につながる。 あとは距離感も大事になりますね。近い選手との距離感を調整できれば、いいリズムになる。自分が顔を出しながら時間を進めたり、立ち位置を修正したりすることを考えながらやっていきたいです」と田中碧は自分のやるべきことをクリアにしながら、試合に入るつもりだ。 長く共闘してきた選手がほとんどいない中、連動性の高い攻撃を見せるのは非常にハードルが高い。だからこそ、田中碧はそれぞれの特徴にフォーカスし、ストロングを前面に押し出すことでゴールに迫っていこうと考えている。 ●田中碧が考える味方を「使う」意識 「(伊東と奥抜の)両サイドはドリブラーなので、彼らにボールを預けることも大事だし、トップ下の選手(伊藤)はコンビネーションもいけるし、ドリブルもいける。真大は裏抜けが一番の特徴。小さいスペースでも大きいスペースでも一瞬の隙を突ける。FWがシュートを打つこともそうだし、1秒でも2秒でもコントロールしてくれれば周りが空く。FWを使うことはすごく大事かなと思います。 そういう意味では、後ろでボールを持つ時間を増やすよりも前にボールを渡す時間を増やした方がいい。(毎熊、森下の)両サイドバックがオーバーラップしたり、僕らが蹴ったりだとか、より前が持てる状況を作っていければいいのかなと思います」 彼が言うように、伊東と奥抜の突破力を有効に使いながら、細谷や伊藤涼太郎がフィニッシュに行ける形を数多く作れれば、得点チャンスは自ずと増えてくるだろう。 アジア相手だと自陣に引かれてなかなか得点を奪えずに苦しむケースが多いが、早い時間帯に先制点を奪えれば、日本代表としては楽に戦えるようになる。そういう流れになるように導いていくのも、中盤の統率役である田中碧の役目と言っていい。 「元日に試合をすることもなかなかないですし、本当に見ていて楽しいサッカーをしたい」と目を輝かせたが、それを具現化すべく、彼には獅子奮迅の働きが求められる。そうやって2024年初陣で最高のスタートを切ることができれば、念願のステップアップへの道も開けてくるかもしれない。 ●「ドイツ2部にいるのはもったいない」田中碧がステップアップするには… 2021年夏に赴いたドイツ2部・フォルトゥナ・デュッセルドルフでのプレーもすでに2年半が経過。今季は前半戦だけで16試合出場(うち先発11試合)4ゴールと悪くない数字を残しているが、2024年こそは格上クラブへと上り詰め、遠藤や守田と互角に勝負できる状況を作りたいはずだ。 カタールW杯まで日本代表でともに戦った吉田麻也も「碧はドイツ2部にいるのはもったいない選手」とたびたび口にしているが、それは日本中のサッカーファンが痛感していることだろう。 日本人ボランチが欧州で飛躍していくことの難しさは、小野伸二や長谷部誠、柴崎岳ら先人を見ても分かる。遠藤と守田は最高峰レベルの環境へ赴くことができたが、評価してくれる監督やスカウト、チーム事情が揃って初めてステップアップが実現するのだ。 田中碧の場合、欧州5大リーグ1部へ行くか、今季昇格争いしているデュッセルドルフが首尾よくドイツ1部に上がれればいいわけだが、そのチャンスをつかむためにも、若手中心のタイ戦で圧倒的な存在感を示さなければいけない。そのうえで、アジアカップで異彩を放ち、さらに個人の評価を上げること。それができれば、本当に2024年はキャリアを大きく変える分岐点になるはずだ。 25歳の中堅ボランチが真の主軸へと変貌を遂げるか否か。そこに注目しながら、新たな年の幕開けの一戦を慎重に見極めたいものである。 (取材・文:元川悦子)
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