災害時のデマ・誤情報の拡散にご注意
大きな災害が起きると、人々は不安に陥り、SNSへの投稿も様変わりします。こうした投稿の中で最も迷惑なものが、デマや誤情報を含む投稿です。2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、「家の下敷きになっています。助けて」といったデマや、かつての災害の画像を今回の地震だと偽った投稿などが拡散されていました。 災害時のデマや誤情報は、「X」(旧Twitter)で多く見られます。大規模に拡散されやすい仕組みが影響しているのだと思います。 NTTドコモ モバイル社会研究所が2023年11月に行った調査※1によると、災害時にXで災害情報を発信・拡散した経験がある人は約2割います。年代別に見ると、若年層ほど発信・拡散した経験は多くなっています。 ※ 1 NTT ドコモモバイル社会研究所「災害時にXで災害情報を発信・拡散した経験がある人は2割」 これは、若者の方がSNSとの親和性が高く、利用時間も長いという理由もあるのでしょう。同社はXの利用率も参考資料として出していますが、20代が最も多く、次が10代、30代と続いていきます。発信・拡散した経験に類似しています。 災害情報を発信・拡散しているとはいえ、デマや誤情報を多く流しているとは限りません。同社の別調査※2で「フェイクニュース」について理解しているかどうかの問いに「聞いたことがあり、内容も理解している」と答えた人を年代別に見ると、10代が突出して高く、7割以上に上ります。実際にフェイクニュースを見破れているかどうかは分かりませんが、情報を精査する重要性は認知できていると考えられます。若者にITリテラシー教育が行き届いていることを感じます。 ※2 NTTドコモモバイル社会研究所「災害時のフェイクニュース・デマなど偽情報を見分ける自信がない約7割」
Xの変貌による弊害も
令和6年能登半島地震では、デマや誤情報の拡散がこれまでとは異なる動きを見せました。それはXが開始した広告収益分配プログラムによる「インプレゾンビ」の影響です。 広告収益分配プログラムは、Xとサブスクリプション契約を結んだアカウントが表示回数に応じて収益を得られるサービスです。そのため、インプレッション(表示回数)を稼ぐことを目的としたアカウントが多く出現し、「インプレゾンビ」と呼ばれています。人々の耳目を引けば儲かる仕組みなので、デマや誤情報だとしても表示回数を稼げるのであれば、ためらいなく投稿するのです。 インプレゾンビの多くが海外のアカウントですが、日本はXの利用率が高いため、彼らは日本語で投稿をしています。日本語で表示回数が多い投稿をコピーして投稿したり、生成AIを使って、表示回数が多い投稿に日本語でコメントを返したりしているのです。 インプレゾンビにとって、重大な災害は単なる表示回数が多い投稿です。その結果、デマや誤情報がいつまでも拡散される状況に陥りました。 プラットフォーム側が対策するまで、せめて私たちがデマや誤情報を拡散する側に回らないように、反射的に災害情報を投稿するのはやめましょう。複数の情報ソースに当たって、真偽を確かめることも大切です。 出典:日経パソコン、2024年4月22日号より 鈴木 朋子=ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 日立ソリューションズにてシステムエンジニア業務に従事、のちフリーライターに。SNS、スマホ、パソコン、Webサービスなど、入門書の著作は20冊を越える。ITの知見と2人の娘の子育て経験を生かして、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」として活動中。近著は「親が知らない子どものスマホ」(日経BP)、「親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本」(技術評論社)