愛月ひかるが語る宝塚歌劇における“悪役の美学”、退団公演『柳生忍法帖』を今振り返る<時代劇専門チャンネル【華麗なる宝塚歌劇の世界】>
宝塚歌劇といえば、『ベルサイユのばら』『風と共に去りぬ』といった西洋を舞台にした物語をイメージされる方も多いだろう。だが、宝塚歌劇では、“日本物”と呼ばれる和物作品もひとつのジャンルとして確立されている。その“日本物”にスポットを当て、フリーアナウンサーの中井美穂さんと宝塚歌劇団OGのゲストが、作品の魅力を語り、深掘りするのが時代劇専門チャンネルの人気企画【華麗なる宝塚歌劇の世界】。シリーズ第6弾の初回は星組公演『柳生忍法帖』(2021年 宝塚大劇場)を、愛月ひかるを招いて放送する(10月21日[月]22時~*リピート放送11月4日[月・休]22時~)。番組収録直後の愛月に、本人の退団公演でもある本作『柳生忍法帖』の見どころと思い出、“日本物”の魅力を語ってもらった。 【写真】これぞ悪役、愛月ひかるが演じた復讐に燃える芦名銅伯 ■番組収録で、改めて感じた退団公演に対する思いとは? ――『柳生忍法帖』は愛月さんの退団公演でもあります。番組の収録で当時を振り返り、改めて思い出されたこともあったのではないでしょうか? ずっと「1公演1公演を大切にして、お客様に最高の舞台をお届けする」という思いでステージに立ってきましたが、『柳生忍法帖』では、より一層その気持ちが強まっていくのを、日々感じていました。収録で中井美穂さんとお話していたら、その当時の自分の気持ちが鮮明に思い出されて、とても有意義な時間を過ごすことができました。また、中井さんは細かく作品をご覧になって、宝塚歌劇の魅力を言葉にしてくださるので、改めて感じることもたくさんありました。番組視聴者の方々からのメッセージも、「そんな風に“愛月ひかる”を観ていてくれたんだな」と嬉しかったです。 ――愛月さん視点で『柳生忍法帖』の見どころを教えてください。 柳生十兵衛という天才剣士の活躍、山田風太郎先生の傑作時代小説が原作になっていることなど、見どころはたくさんありますが、特に私がこの作品で面白いと感じたのは、復讐に巻き込まれながらも、自らの力で苦難を乗り越えようとするたくましい女性たちにスポットが当たるところです。なんと娘役さんも立ち回りをするんですよ! そんな場面は、他の作品では滅多に見られないと思うので、宝塚歌劇をよくご覧になる方にとっても新鮮で、いつもとは違うワクワクを楽しんでいただけると思います。 ――『柳生忍法帖』では、100歳を超えてもなお復讐に燃える、芦名銅伯という謎多き人物を演じられています。在団中はさまざまなタイプの悪役を演じ、高い評価を得ていますが、愛月さんが悪役を演じる時に意識していることは何でしょう。 宝塚歌劇の悪役は、物語の重要な役割を担っている存在です。悪役がどんな芝居をするか、どんな印象を与えるかで、作品の奥深さが大きく変わっていくからです。役の作り込み方は作品それぞれで異なりますが、悪役を演じるうえで共通していたのは、「すべての登場人物の中で、この悪役はどんな位置にいるのか」、「どう悪の感情を出していくと効果的なのか」、「そしてそれを組全員でひとつの物語として成立させるためにはどうすべきか」を、一歩引いた客観的な視線を持ちながら、理想の人物に仕上げていくことです。毎回とても悩みましたが、とてもやりがいのあるチャレンジでした。 ■宝塚歌劇ならではの、日本物の世界を作り出すために ――着物の衣裳を美しく着こなすために、工夫していたことはありますか? 宝塚歌劇の日本物は早着替えも見どころのひとつですが、下級生は上級生の早替えを手伝いながら、着こなし方、所作、魅せ方などを勉強していきます。私もそうして上級生から学んだことを、自分や、演じる役に合うようにアレンジしていました。だから自分にお手伝いの下級生がついてくれた時は、私はお節介焼きなところがあるので、「もっとこうしたほうがかっこいいよ」「こんな着こなしのほうが綺麗だよ」と、かなり細かく、あれこれアドバイスしていました(笑)。少しでも下級生たちのためになっていたら嬉しいですね。 ――宝塚歌劇で日本物が上演される機会はあまり多くなく、公演を待ち焦がれているファンも多くいます。愛月さんにとっても、日本物に出演するのは特別な経験でしょうか? 宝塚音楽学校では日本舞踊の授業もありますが、和のエッセンスが入ったダンスはとても難しいし、所作事もたくさんあるので、出演する時は相当気合いが入りました。私は日本物が好きで、もっとたくさん出演したかったのですが、なかなかチャンスが巡ってこなかったんです。でも、自分の退団公演が日本物に決まり、数少ない日本物の舞台に、宝塚最後の公演で立てることがとても嬉しかったです。宝塚歌劇の日本物は、宝塚でしか表現できない華やかさ、美しさ、雅さがあります。私は日本舞踊が大好きなので、自分がそれまでに磨いてきた芸のすべてを、この舞台で出し切りたいと思っていました。 ――日本物の『美しき生涯』(2011年宙組公演)の新人公演では、主人公の石田三成も演じられていました(本役:大空祐飛/現・大空ゆうひ)。その時の思い出を教えてください。 石田三成の愛と義を描いた『美しき生涯』は、一番思い入れのある作品です。大石静先生の脚本で、物語はもちろん、音楽も衣裳も舞台装置も、とても素敵な世界観で魅了されました。その新人公演で石田三成を演じられたことは、宝塚時代の大切な思い出の一つです。あの時の喜びは、今も忘れていません。 ■宝塚歌劇のテレビ観劇は…「劇場の最前列で観ているような興奮!」 ――宝塚歌劇をテレビで観賞する面白さは、どんなところにあると思いますか? 宝塚歌劇は登場人物が多く、芝居に歌に踊りにと、見どころが盛りだくさん。そのすべての一番の見どころを、もっともいいアングルで見せてくれるのがテレビ観劇だと思います。出演者の細かな演技や表情、日本物の着物の衣裳に施された細かなあしらいも、高画質の映像で楽しめます。それは【華麗なる宝塚歌劇の世界】ならではの、贅沢な観劇体験ではないでしょうか。 ――今年は宝塚歌劇110周年記念の年。12月には、宝塚歌劇団100周年のトップスターが集結するショー、『RUNWAY』にも出演されます。その意気込みを聞かせてください。 宝塚歌劇の記念のステージに立てることは、とても光栄なことだと感じています。私がファン時代に憧れていた素晴らしい先輩方ともご一緒させていただけるので、本当に楽しみで、今からワクワクしています。宝塚を愛するOGとして、宝塚歌劇の魅力をお伝えできればと思います。 ◆構成・文=神山典子