45歳にして初のクレジットカードで文明人になった落語家 周囲のすすめで未来人に? 春風亭一之輔
……ということで、今回書けるのはそれぐらい。それも去年の出来事なので新鮮味にも欠けますね。情けないったらありゃしないです。 でね、今年はもう海外は諦めました。国内で十分。そして、クレジットカードを所持するようになったこの文明人の私に、周りの人間がまだあることをすすめてくるのです。 「いいかげんにマイル貯めなよ」と。 噺家の先輩も、後輩も、弟子たちも、お客さんも、家内も、大学生になったばかりの長男も、近所の人も、大学時代の友達も、高校時代の親友も、たまたま取材で知り合ったようなもう生涯会わない人からも、「絶対マイル貯めた方がいい!」と切々と言われます。 A「どれだけ地方の仕事で飛行機乗ってるんですか?」 私「まぁ、ひと月に多くて4、5回かな。もうかれこれ10年以上」 A「え! 一回もマイル貯めたことないんですか?」 私「はい」 A「ただの一回も?」 私「はい」 A「……なぜ?」 私「しいて言うなら、めんどくさい」 A「……マイル貯めるとどんないいことがあるか知らないんですか?」 私「だいたい知ってるよ。そのマイルでなんか買えたり、旅行行けたりするんでしょ?」 A「まぁ、そうですね」 私「だってさ、おかしいだろ? なんもしてないのにお金もらえるのと同じだろ?」 A「は?」
私「わざわざ運んでもらってさ、なぜお金もらえるのよ? いくらサービスとはいえそれはちょっと甘やかしすぎだわ。ベルマークためるのとはわけがちがうだろ。操縦してるのは機長さん、サービスしてるのはCAさん、燃料入れたりメンテナンスしたりしてるのも職員さん。俺たちなーんにもやらずに乗ってるだけだよ。お金払ってるけど、お金出してるのは仕事の発注先だからね。俺は乗ってるだけ。で、落語やって帰ってくるだけ。それなのにマイル貯めてまたタダでひと旅行しようってのはどーも解せんなー! そんなことしていいの!?」 A「制度としてはいいんですよ」 私「やだ!」 A「……じゃ、ムリに貯めなくてもいーんじゃないですか。でも……絶対、損してますよ」 私「損はしてねーだろ! 元々無かったもんだもの! 俺は飛行機乗れるだけで十分だ!!! それになんか難しい審査とかあるんだろ! そのマイレージナンチャラカードは落語家みたいな浮草稼業でも作れんの!?」 A「作れます」 私「え? そーなの?」 A「サルでも作れます」 私「そりゃ言いすぎだろ?」 A「まぁ、言いすぎですけどそれに近い人もマイル貯めてますよ」 そろそろマイルを貯め始めようかな……。今年の私はかなりの未来人になってしまうかもしれません。あと「円安」はマイルには関係ないんだってさ。へー。
春風亭一之輔