意外!少子化を助長する「悪の権化」東京に、じつは出生率で「全国ベスト2」という“別のデータ”が存在していた…!日本の少子化対策を惑わせる「合計特殊出生率の大問題」
実は「東京の出生率が高い」データがあった…!
金融・財政・人口動態が専門のマクロ経済学者で上智大学の中里透准教授は、未婚女性の移動の状況などでデータに大きなブレが生じる合計特殊出生率よりも、「有配偶出生率」を用いて比較するほうが「有益な参照指標」となるとしている。 有配偶出生率は、さきほど見た合計特殊出生率とは違って結婚している女性のみを対象とした出生率の指標である。具体的には15歳から49歳の有配偶の女性人口を「分母」、この年齢層の女性が生んだ子どもの数を「分子」として、子どもの数を夫のいる女性の数で割ることで求められる。 2020年時点の状況を、有配偶出生率を使って全国と比較してみるとどうなるか。下の図のとおり、実は東京23区の出生率は世田谷区を除いて全国平均を上回っている。 なお、以下の図表は財務省のシンクタンク、財務総合政策研究所(財務総研)で公開されている中里准教授が作成した講演資料を借用したものだ。 さらに、出産可能年齢(15歳~49歳)の女性の総数とその年齢階層の女性が生んだ子どもの数をもとに女性人口1000人あたりの出生数を割り出した場合の出生率を出してみると、東京の千代田区・港区・中央区は出生率が飛びぬけて高い(下の図)。 しかも、この指標には分母に未婚の女性も含まれているにもかかわらず、この3区は全国1位の沖縄県に次ぐ2位に位置している。 このように、合計特殊出生率とは異なる指標を用いれば、世論の認識とはまるで別世界とも思える現実が浮かび上がってくるのだ。 ところがいま、地域差の出生率比較の参考にならない合計特殊出生率によって、東京都は少子化の戦犯にされている。そうした風潮が一気に高まったのは、4月24日に「人口戦略会議」が公表した「ブラックホール型自治体」だった。
かなり疑わしい「東京ブラックホール論」
「ブラックホール型自治体」とは、ほかの地域から人々が移り住み人口が増えているが、合計特殊出生率が低い自治体のことだ。皮肉を込めて名指しされた自治体のなかには、豊島区や世田谷区、目黒区など東京都の16区が含まれる。 人口戦略会議は、日本製鉄名誉会長の三村明夫氏が議長を、10年前の2014年に「消滅可能性自治体」という言葉を世に広めた日本郵政社長の増田寛也氏が副議長を務めている。日本の中枢で活躍する名士たちが居並ぶ民間有識者会議の提言は、「東京ブラックホール論」としてまたたく間に日本中に広がった。 しかし、「ブラックホール型自治体」は、地域差の比較が適当でない合計特殊出生率に基づいて作成されており、識者からは「根拠に乏しい」と批判があがっている。 人口戦略会議には、岸田文雄首相のブレーンとして知られる内閣官房参与の山崎史郎氏も名を連ねているが、日本を代表する名士たちの少子化対策の提言が、こんないい加減なもので本当に大丈夫なのだろうか。 後編「日本の少子化は「根拠なき対策」のせいだった…! 「東京ブラックホール論」の欺瞞を暴く「東京の出生率が高い」データを一挙公開する!」では、「人口戦略会議」の指摘と「東京ブラックホール論」の危うさについて、考えていこう。
藤岡 雅(週刊現代 記者)