給食から「揚げパン」が消える? パン業者の相次ぐ「撤退」の背景に「給食費無償化」と厳しすぎる「縛り」
■国は米飯給食を推進 実は半世紀以上前、学校給食の主食といえば、米ではなくパンだった。それが変わり始めたのは1970年代。当時、農林省は「米余り」の解消策として、文部省と連携して米飯給食の普及を推進した。76年、学校給食に米飯が正式導入。85年、文部省は週3回の米飯給食実施を目標に掲げた。目標は2007年に達成されたが、「『日本型食生活』を受け継いでもらう」(農林水産省)という新たな目的が設定され、昨年度は全国平均週3.6回に達した。 一方、給食パンの製造は年々採算が合わなくなってきた。採算性は企業形態によって異なるが、現在、生き残るのは、家族経営の比較的規模の小さな業者か、給食パンの製造以外に主力事業を持つ業者がほとんどだという。最近は人件費や光熱費が高騰し、製造業者の経営を圧迫する。 神奈川県相模原市に本社工場のある「オギノパン」は昨年3月末で給食パン事業から撤退した。荻野隆介代表取締役は、こう漏らす。 「昔は週に4回パン給食がありましたが、今は週に1回。売り上げは当然4分の1に減ります。でも、製造ラインや配送車、それを動かす人手は維持しなければならない」 ■過疎地でも「自社配送」 給食パンの業界は特殊だ。価格や材料、納品まで、とにかく縛りが多いのだ。 まず、「学校へのパンの売り渡し価格をこちらでは決められない」(荻野さん)。パンの価格は都道府県ごとに設置された「学校給食会」が統一して定めている。例えば、今年度の神奈川県の給食用コッペパン(小麦粉の重さ50グラムの場合)は51.7円。 製造業者によってパンの味や食感に差が出ないよう、原材料やレシピも厳密に定められている。小麦粉などの主原料は学校給食会が一括購入し、指定した業者に引き渡され、パンに加工される。その「加工賃」が業者に支払われる。パンの価格の約8割が加工賃だ。 各学校へのパンの配送は「自社配送」が求められる。オギノパンが担当していた小中学校は50校強(22年度)。児童・生徒数の少ない過疎地の学校にもパンを納品に行かなければならない。 「撤退直前は、『宅配便でパンを届けられないか』とまじめに考えていたくらい、収支が切迫していました」(同) ■安定供給できるギリギリ この10年で神奈川県内の指定業者は約25社から13社に減った。 「県内の学校にパンを安定供給できる本当にギリギリのラインです」と、同県平塚市で給食パンを製造する「高久(たかく)製パン」の高久直輝代表取締役社長は訴える。 神奈川県学校給食会もパン業者の苦境を十分認識している。