タイでも通じる日本語「神推し」「特典会」、その理由とは?AKB48姉妹グループ・BNK48が歴史を変えた瞬間
タイアイドルシーンが変わった瞬間
2013年ごろをピークに、その後も韓国カルチャーとK-POPの影響は長く続いたが、そこに大きな風穴が開いたのが2017年だ。BNK48の大ブレイクである。筆者は偶然にもその象徴的な瞬間に居合わせた。同年、バンコクの野外音楽フェス『Cat Expo』に初出演したBNK48は、その時点でCDデビューからわずか3カ月にもかかわらず、全5ステージ中最大規模のステージに立った。2ndシングル「恋するフォーチュンクッキー」のミュージックビデオが1週間前に公開されたばかりだった。 それまでにもモーニング娘。がタイでライブを行うなど、日本のアイドルはマンガやアニメのファン層と重なるかたちでコアなファンダムを持ってはいた。AKB48も然りだ。しかし大きく違ったのは、BNK48がAKB48の正式な海外姉妹グループとしてタイ人メンバーによって結成されたことだった。憧れの日本カルチャーの象徴「カワイイ系アイドル」が本家公認で自国に初めて誕生し、人気音楽フェスで一番大きなステージに立つ。新曲のセンターに抜擢された、当時まだ15歳のMobile(モバイル)は、デビュー曲での選抜落ちからの大逆転だった。 「自分の国の女の子を、ついに日本スタイルで推せる」という喜び、誇り、そしてAKB48グループが持つストーリー性が生む感動。そんなさまざまな感情が混じり合った、あの日の観客席の熱狂がタイのアイドルシーンを大きく変えたのは間違いない。 AKB48から移籍したばかりの伊豆田莉奈もこのステージに立っていた。ほかのメンバーが初めての大きな舞台に緊張を隠せないなか、彼女はメンバーたちのフォーメーションにも気を配る余裕を見せた。伊豆田はその後、AKB48スタイルをメンバーに伝承する役割を担う。小指のほんの少しの曲げ方ひとつでさまざまな感情を表現できること、ファンとの目の合わせ方、メイク……。「恋するフォーチュンクッキー」の大ヒットで国民的アイドルに昇りつめたBNK48。その成長の陰には、伊豆田による本家直伝の技術指導があったのだ。