社殿の扉から登場したラジカセ 嵐の日にも集まって… 境内で「奉納」するのはラジオ体操
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】住民たちが〝奉納〟するラジオ体操 雪の日も、嵐の日も
「体操神社」で毎朝元気に
午前6時、気温1度。 日の出前のまだ薄暗いなか、住民が白い息を吐きながら集まってくる。 近くに住む主婦工藤光子さん(73)が、神社の境内にある小さな「社殿」の扉を開ける。 中に祀(まつ)られているのは、昔なつかしいラジカセだ。 「さあ、みなさん、今日も元気よく、ラジオ体操を始めましょう!」 午前6時半、ラジオからなじみの音楽が流れ始めると、社殿前には笑顔が広がり、参加者は思い思いに体を動かす。 人呼んで「体操神社」。 盛岡市住吉町で暮らす老若男女の住民らが毎朝、元気にラジオ体操を「奉納」している。
神社も活動を後押し、毎日が「礼拝日」
この地域でラジオ体操が始まったのは2012年6月。 高齢者の健康維持のほか、少子化や核家族化で近隣のつながりが薄れつつあるのを防ごうと、女性たちが中心となって始めた。 地元の住吉神社も活動を後押しした。 活動場所として神社を使うことを認めただけでなく、境内の一角に体操神社を「創建」し、住民が毎朝、重いラジカセを持ってこなくても良いようにとりはからってくれた。 毎日が「礼拝日」だ。 「雨が降っても雪が降っても、嵐の日も毎日やっています」(工藤さん) 年末年始の6日間を除き、夏も冬も、住民らは休まずにラジオ体操を続ける。 主婦の今井冴子さん(85)は「10年間、風邪をひいたことがないんです。これも体操神社の御利益です」とうれしそうに話す。 (2022年11月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>