アーセナル大勝の要因はデクラン・ライス。アルテタ監督が演出した劇的な変化とは【欧州CL分析コラム】
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第5節、スポルティングCP対アーセナルが現地時間26日に行われ、1-5でアウェイチームが勝利を収めた。予想をはるかに上回る大勝の要因となったのがデクラン・ライスである。指揮官ミケル・アルテタはイングランド代表MFにどのような役割を与えて、以前に見られた課題を改善に導いたのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】スポルティングCP対アーセナル ハイライト
●アーセナルが強豪スポルティングCP相手に5-1の大勝 アーセナルの「傾向」が凝縮された90分間だった。 ミケル・アルテタ監督のチームは、国内リーグで11試合全勝、UEFAチャンピオンズリーグでも4戦3勝1分と好調だったスポルティングCP相手にアウェイで5-1の勝利を収めた。 この大勝の要因について分析すると、冒頭にも述べた1つの「傾向」が浮かび上がってくる。 その「傾向」とは、最初のアプローチがハマるかどうかが、試合の結果に直結していることである。 早い時間帯にゴールを決めることができれば勝率が高まるのは当然のことだが、アーセナルの場合はより顕著だ。前半に得点が決まった公式戦11試合のうち、未勝利に終わったのはマンチェスター・シティ戦、ブライトン戦、リバプール戦の3試合のみ。そのうちの2試合では退場者が出ており、アクシデントがない限りは大半の試合を優位に運ぶことができている。 一方で敗れた3試合の共通点としてあるのが、前半から苦戦を強いられたことで、いずれも相手に先制ゴールを許して“完封負け”を喫している。 話をスポルティングCP戦に戻すと、この試合はキックオフ直後から狙い通りの形が的中した最たる例だと言えるだろう。11月の代表ウィーク前の最終戦となったプレミアリーグ第11節チェルシー戦と比較をすると、前半から試合を優位に運べた理由が見えてくる。 ●ミケル・アルテタ監督の長所 アルテタ監督が試合途中の修正をあまり得意としていないことは、これまでの結果を見れば明らかだろう。ベンチに試合の流れを劇的に変える“切り札“の要素を持つ選手が少ないことも影響してか、ビハインドの展開になると、なかなか同点、逆転へと導くことができていない。 実際に今季相手にリードを許した5試合のうち、先述した通り3試合では完封負けを喫しており、最下位サウサンプトン戦が唯一の逆転勝利である。第5節マンチェスター・シティ戦は前半のうちに同点に追いつき、一時的に逆転にも成功したが、そもそも試合の入りから内容は良く、指揮官の試合中の修正力が結果に反映したわけではない。 ただ、彼は“試合ごとの修正”には優れた指揮官だと言って良いだろう。 チェルシー戦とスポルティングCP戦でのスタメンの違いは、負傷離脱したベン・ホワイトのところのみ。彼に代わって左SBで出場していたユリエン・ティンバーが右SBに回り、左SBには怪我から復帰したリッカルド・カラフィオーリが入った。 怪我人の影響で、ティンバーよりもアーセナルの左SB適性があるカラフィオーリが左サイドに入ったこともチームが機能する上で重要な要素だったが、同じ中盤の構成ながら機能性が増したのは、チェルシー戦以来の出場となったデクラン・ライスの役割の変化が大きいように思う。 ●悪目立ちしたチェルシー戦からの変化 ライスは微妙なパフォーマンスに終わったチェルシー戦で、高い位置を取りたがるティンバーに代わって左サイドの低い位置にいることが多く、ボールを受けに下がってくる悪い癖も相まってビルドアップが停滞する要因となっていた。 71分に彼に代わりミケル・メリーノがピッチに入ると、このスペイン代表はライスと違って積極的に右サイドに動き、あらゆる局面で数的優位の状況を作り出して、チームの機能性を上げていた。 アルテタ監督はメリーノがみせた、「右サイドへのサポートの役割」をスポルティングCP戦でライスにも課したのだ。これによってアーセナルの攻撃における最大の強みである「マルティン・ウーデゴールとブカヨ・サカ+右SB」のポジションチェンジからなる流動性がより活きる形になった。 ●デクラン・ライスの役割を変えたことによる劇的な変化 その代表例が、先制点が決まった7分のシーンで、ライスは最初の立ち位置からかなり右サイドに寄ってパス回しに参加している。 イングランド代表MFのポジション移動によって5人でボールを回すアーセナルに対して、対応できなかったスポルティングCPは4人で監視しなければいけないミスマッチが発生。最終的に誰もマークすることができていなかったライスのところからズレが生まれて、相手守備陣は完全に後手に回った。 この場面はスローインの流れということもあって、ライスが右サイドに顔を出しやすい状況にあったのは確かだろう。ただ、彼がウーデゴールらとのポジションチェンジに参加したのはこのシーンだけでなく、直後の12分にもノルウェー代表MFが下がって受けたところで右サイドに流れ、最終的にはサカからのボールを右のハーフスペースを駆け上がってボールを呼び込んだ。 この一連のムーブに対して、スポルティングCPの守備陣は後手を踏み続けた。22分の得点シーンも最終的にはトーマス・パーティーとサカの質から生まれたが、この場面の起点となったのが彼の右サイドへのボールキャリーだった。 最初のアプローチがハマったことで、2点をリードしたアーセナルは、前半終了間際に得意のコーナーキックからダメ押しの3点目をゲット。これで勝負は決まった。 恐らくライスの劇的な役割の変化は、代表ウィーク期間中に落とし込んだものだろう。これから訪れる怒涛の過密日程で勝ち進むための重要なアプローチとなりそうだ。 (文:安洋一郎)
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