村上春樹「自分で言うのもなんだけど、なかなか渋いラインアップです」自身のラジオ番組『村上RADIO』で“知る人ぞ知るソングライター” マット・デニスを特集
◆Matt Dennis「Junior And Julie」
まずは作曲者マット・デニス自身の弾き語りから聴いてください。自作を集めて自分で歌ったアルバム『プレイズ・アンド・シングス』からのトラックです。曲は「Junior And Julie」、彼が自らピアノを弾いて歌います。歌もうまいんです、これが。 ジュニアというのは語り手の息子の名前、ジュリーは娘の名前です。彼は2人のためにせっせと貯金をしています。ジュニアはやがて世間に名を知られた立派なお医者になるし、ジュリーは素敵なレディーになって、ホワイトハウスにお茶に招かれます。そうなる予定なんです。誇らしい父親……というところなんだけど、でもちょっと話が早すぎるかなと語り手は反省します。だって僕らは今日結婚したばかりなんだものね、と。とてもほのぼのとした素敵な歌であり、素敵な歌唱です。
◆The Red Garland Trio「Will You Still Be Mine?」 ◆Buddy Greco「Will You Still Be Mine?」
「Junior And Julie」はそれほど有名な曲ではありませんが、こちらはかなり有名です。「Will You Still Be Mine?(君はまだぼくのものでいてくれるだろうか?)」。マイルズ・デイヴィスやレッド・ガーランドが取り上げて演奏したので、ジャズ・ファンにもよく知られています。 この曲は歌詞がすごく面白いんです。「長い歳月が流れても、それでも君はまだぼくのものでいてくれるだろうか」という歌なんだけど、その時代時代のネタを盛り込んでいろんな歌手が、歌詞を適当に変えて歌っています。たとえばですが、「マリリン・モンローが年老いてぺちゃパイになっても、君はまだぼくのものだろうか」とかね。 このバディ・グレコの歌うライブ盤は1955年の録音ですが、ここでも時事ネタがふんだんに取り入れられています。今となってはなんのことだか、というものも多いんですけど、わかる方は笑ってください。バディ・グレコもマット・デニスと同じようにピアノの弾き語りの達者な才人でした。
<収録中のつぶやき>
「(歌詞の中の)“When CONFIDENTIAL tell us the truth……、この“コンフィデンシャル”は嘘ばっかり書いている雑誌か新聞の名だけど、当時のことだから、いま聴いてもよくわかんないですね。CBSがなんとかっていう有名な司会者をクビにしたとか。誰だかわからないよね、いまでは」 (TOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO~マット・デニス・ソングブック~」5月26日(日)放送より)