平川、宮田に続きプルシェールも……F1との距離が縮まるように見えるトヨタ。彼らがメーカーとしてF1に復帰する可能性は本当にないのか？
トヨタがF1に近づいているように、どうしても見えてしまう。 トヨタのWECドライバーである平川亮がマクラーレンF1のリザーブドライバーに就任し、トヨタのドライバーとして2023年にスーパーフォーミュラとスーパーGTでダブルタイトルを獲得した宮田莉朋が、F1直下のカテゴリーであるFIA F2に参戦することが決まった。それに加え、2023年のFIA F2でチャンピオンに輝き、ザウバーF1の育成ドライバーであるテオ・プルシェールが、トヨタ陣営のITOCHU ENEX TEAM IMPULのドライバーとして来季はスーパーフォーミュラで走ることになった。 【写真】トヨタが2010年に向け準備していたF1マシンTF110 TOYOTA GAZOO Racingの2023年国内参戦発表会に登場したトヨタ自動車の豊田章男会長は、プルシェールのスーパーフォーミュラ参戦について次のように語り、歓迎した。 「スーパーフォーミュラという日本で有数の、F1に次ぐレースとして注目されてきたことの表れだと思います。F1に向かうドライバーたちが、スーパーフォーミュラを登竜門として注目し始めたのでしょう」 「日本で観ることができるスーパーフォーミュラが、だんだん世界に近づいていく、世界への道を開いていく……そんなレースが来年日本の各地で見られると思うと、それをモリゾウ（豊田会長がレースに参戦する際の登録名）としても楽しみにしています」 これらのドライバー人事を見ると、トヨタとF1の距離は、近年ないほど縮まっているのは明らかだ。 しかしトヨタとしては、平川のF1挑戦は、トヨタがF1に復帰することとは別問題であると繰り返し発言してきた。日本GPの際、平川に帯同して鈴鹿サーキットを訪れた元F1ドライバーであり、現在はTGR欧州の副会長を務める中嶋一貴は次のように語っていた。 「現時点では、（F1復帰が）無いのは明らかです」 「この契約は本当に純粋にドライバーにフォーカスしたモノで、ドライバーの夢をサポートするモノです」 確かにF1は、モータースポーツの世界最高峰レース。レーシングドライバーになったからには、目指したいと思うのは当然だし、その想いをサポートしたいと言うトヨタの主張はよく理解できる。しかしその一方で、モータースポーツの最高峰と認めるのであれば、トヨタがF1に参戦してもいいのではないか……そんな想いが強まっていくこともまた事実だ。 トヨタはF1のことをどのように認識しているのか？ TOYOTA GAZOO Racingモータースポーツ技術室の加地雅哉室長に尋ねると、次のように語った。 「今のところトヨタとしてF1に、というプランはないです。ただ、F1がドライバーが目指すトップカテゴリーであることは疑いようはないので、ドライバーがトップを目指せる環境や世界を作ってサポートしていくということだと思います」 そう加地室長は語った。 「平川選手は（マクラーレンの）リザーブドライバーですが、いつかF1で走って欲しいということも強く思いますし、宮田選手がF2を走るのもそうです。その結果F1で活躍できるドライバーが出てきて、彼らがその後で我々と共にWECやル・マンに出てもらって、もっと良いクルマ作りに貢献してくれる……それが我々が目指している未来です」 「ドライバーにとっては、いろいろな活躍の場があるというのは良いことだと思います。そして我々としては、それをしっかりサポートしていくということだと思います」 ドライバーにとっての最高峰たるF1。”クルマ作り”という面でトヨタはF1をどう捉えているのか？ そう尋ねると、加地室長は次のように語った。 「なかなか難しいですね。F1もカーボンニュートラルに向け、サステナブルフューエル（持続可能燃料）だとか電動化の技術も入れて、実験的なことができる、もっと良いクルマ作りができる、カーボンニュートラルに挑戦できる場であるというように、大きく変わってきていると思います。魅力がないかというと、そんなことはないと思います」 そう加地室長は言う。 「ただ、我々は耐久のトヨタだと思っています。我々の目指すクルマ作り、乗りやすくてしっかり信じて乗れるクルマを作っていくという点では、今まで耐久を中心にやってきているので、そこを崩すことはないと思うんです」 「その中で、F1が目指す世界がトライする価値のある世界であるならば、そういう話が出るかもしれないですけどね。でも、F1の技術を否定することは全くないです」 トヨタは2002年から2009年まで、シャシーとエンジンも自社開発し、チームとしてF1に参戦した。その間ポールポジション3回、ファステストラップ3回を記録したものの、最高位は2位（5回）。優勝には手が届かなかった。特に活動最終年となった2009年には、優勝のチャンスが何度かあり、翌年こそはという想いが強かったはずだ。 しかしリーマンショックの影響を受けて、この年限りで急遽F1撤退。すでに”TF110”と呼ばれる2010年用マシンの開発もほぼ完了した段階での決断だった。ちなみにこのF1撤退を発表したのは、当時トヨタ自動車の社長を務めていた豊田章男氏だった。 ある意味トヨタにとってF1での優勝は”忘れ物”と言ってもいいかもしれない。それを改めて獲りに行きたいという声は、社内にはないのか？ そう尋ねると、加地室長は次のように語った。 「やりたいかどうかよりも、そこに投資する価値がどれだけあるかということだと思います」 「F1がチャレンジしている技術は、未来に通じる技術だと思うので、そこはしっかり見ていますし、我々も色々な研究はしています」 「とにかくやれる、やれないというよりも、最後はそこにもっと良いクルマ作りとドライバーファーストに繋がる道がどれだけあるかということだと思います」
田中健一
